第6章 野外学習準備⑴

第20話 はじめての学校行事

 学校での通常の授業や勉強トレは期待していたほどではなかった。少なくとも勉強トレの質・量は俺が記憶を取り戻してからの俺の日々より内容が薄い。


 それでも近いレベルの相手が大勢いるのは楽しい。だからついベンチプレス対決とか腹筋ローラー耐久なんて事もしたりする。

 やった後は酷い筋肉痛を起こして後悔するのだが、回復するとついまたやってしまうのだ。


 ただ俺達がいるのは最優秀の筋士団きしだんコースの、更に最優秀な1組。中等部入学時の飛び級を目指す者のため、希望者には中等部で学ぶ事の予習なんてものがある。


 こちらは学習内容も勉強トレもなかなかハードだ。ただ学習は頑張ればついていけない内容ではないし、大学生だった田常呂たどころ浩治こうじの記憶もある。


 そして俺の筋肉は筋肉神テストステロンからの恩寵がある。無茶苦茶に鍛えても疲れにくいし他人以上に超回復する筋肉が。

 おかげでこの補習も辛いと思う事はない。

 ミトさんやサダハルも一緒だし。


 また学校帰りミトさんの家に寄って、サダハルも含めた3人で勉強トレをするのも楽しみだ。

 ミトさんの家はロイシンの街にある僕の家とほぼ同じ大きさ。トレーニング機器も揃っている。ロイシンの家にある機器と比べるとやや下半身重視に感じるけれど。


 またミトさんの要望で田常呂たどころ浩治こうじが使ったような対人相手の戦い方の研究・練習なんて事をしている。


 当初サダハルは田常呂たどころ浩治こうじが言うところの技については否定的だった。


「人間型の相手に対しては確かに有効だな。でもいちいち相手を崩したり、手の形を考えたりするのは面倒じゃないか? 最大筋力で最大の筋愛きあいを込めてただ打つだけでいいと思うんだが」


 スグルも基本的にはサダハルと同じ考えだ。筋肉神テストステロンの加護である筋肉の力を正面からぶつける。それがアナボリックこのせかいにおける正攻法。


 つまり田常呂たどころ浩治こうじがやったような方法は人によっては邪道と見なされる可能性がある。もちろん武器を使わず自らの肉体のみ使用しているので、筋本位制には反していないのだけれど。

 

「それはサダハルが自分より筋力が大きい相手と戦った事がないからです。筋力が自分より大きく体格も上の相手と戦う場合、速度だけでは限界があります」


 まあミトさんがそう言うから。そんな理由で研究したり練習したりしている訳だ。そしてミトさん、こだわり出すと結構細かい。


 例えば俺とサダハルが一本背負いを練習していると、こうチェックをしてきたりする。


「ちょっと待って下さい。スグルの今の一歩はもう少し踏み込んだ方がいいと思います。相手の下に潜り込んで持ち上げる。その事を意識して下さい」


 まあこんな感じで。実際その通りにすると技が決まりやすかったりするのだ。


 そんな日々が続き、俺もなんとか田常呂たどころ浩治こうじのサポートなしでクラスメイトと会話が出来るようになった頃。

 野外実習についての発表があった。


「ヤー! 今日は5月15日から行われる野外実習について説明する。5年の時の野外実習と違い今度は街壁の外、魔物が出るエリアで実戦ありの実習だ」


 担任の言葉に教室内が一気にどよめく。


 俺自身は休日にリサと魔物討伐に出かけたりする。だから壁の外はそう珍しくない。

 しかし普通の生徒トレーニーにとって壁の外は、

  ○ 他の街に行く等特別な場合に限り

  ○ 護衛を数人雇った上で

やっと出かけられる場所。


 だからきっと皆、壁の外に対する憧れに似た気持ちがあるのだろう。かつて僕が壁を飛び越えて脱走する前と同様に。

 あの頃の僕よりクラスメイトの皆さんは強い。ゴブリンやコボルト、スライム程度なら瞬殺だろう。だから恐怖より期待が勝る訳だ。


「先輩たちから聞いて知っている者も多いと思うが概要を説明する。場所は西門を出て、人力車を引いて2時間ほど走った場所にあるプロリン平原だ。


 5月15日から17日までの2泊3日。初日に臨時拠点を設置。翌日から周辺の魔物や魔獣を討伐、最終日に拠点を撤去して戻ってくるという日程だ。


 当然のことだが拠点設置に必要な資材は学校から持って行く。穴を掘ったり木や石を組んだりするのも、食事を作ったりするのも生徒トレーニーだ」


 拠点を組むのか。なかなか面白そうだ。

 勿論授業で事前学習はしている。カット済みの丸太や板、石材を使って建物を組み上げるという訓練もした。魔物や魔獣対策で堀を掘ったりなんて事も学習した。


 なお現場で宿泊施設を組み上げる事について、田常呂たどころ浩治こうじ的には違和感があったようだ。


『テントのような持ち運びが楽な道具は使わないんだな。テントなら持ち運びだけで無く設営も簡単だろうに』


 田常呂たどころ浩治こうじの世界では野外で宿泊するのに布や棒で作られたテントという物を使用するらしい。


『魔獣や魔物に襲われたらひとたまりもないだろう、そんな建物じゃ。安心して寝ることが出来ない気がする』


 そんな柔な物、とても安心して使えないと思うのだ。


『運びやすい事が重視されていたんだ。敵に対しては見張り番を置くことで対処する』


『敵に対抗できる人数が起きていなきゃならないなら、日中活動できる人間が減るだろう』


『そこは交代で睡眠を取ることにして解決する訳だ。3時間交代で3当番とか』


『それでは睡眠時間が減って身体に悪いだろう』


 何というか田常呂たどころ浩治こうじのいた世界、今ひとつ合理的ではない気がする。そう思うのはいつもの事なのだけれど。


「それでは野外学習の前に決めておく事について説明する。

 まず決めるのは5人1組の活動班だ。資材運送、魔物討伐、食事調理等全ての活動における最小単位となる。そのことを念頭に組んでくれ。

 それではこれから20分間、班分けの時間とする。パワー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る