第19話 学校の帰り道で

 先生から俺が怒られる事は無かった。というかむしろ褒められてしまった。

 これはミトさんとサダハル、そして筋本位制のおかげだ。


「ミトさんとサダハル君からも状況を確認した。非はエル、トポ、サブの3人にあって、スグル君の行動には全く問題は無い。

 むしろ年齢が上の3人による言いがかりに対し冷静に対処、その上で筋肉審判で結果を出した。筋本位制の精神に基づく正しい行動だと認められるだろう」


 ショー先生から言われた事をまとめると概ねこんな感じだ。

 そしてミトさんとサダハルが俺の後をつけていた経緯も2人から教えてもらった。一緒に家へと帰る途中に。


 ◇◇◇ 


「ザバス町なら同じ方向だ。一緒に帰ろう」


 サダハルがそう言ったのでミトさん含め3人で学校を出る。


「ミトさんやサダハル君もザバス町なんですか」


 これを聞いたのは田常呂たどころ浩治こうじだ。同じくらいの子供と話した事がないスグルはどうも緊張して言葉が出ない。

 同じくらいと言っても学年だけで年齢は違うのだけれど。


「ああ、どっちも2丁目だ」


「うちと同じですね」


 近すぎると少しまずいかもしれない。そうスグルは思う。もしリサと2人暮らしなのを知られたら。家でお坊ちゃまと呼ばれているなんてのはなかなかに恥ずかしい。


『心配いらないと思うぞ。多分ミトさんもサダハルも同じ立場だ。ステータスに3つめの名字があっただろう』


 そう言えばそうだった。言われてスグルはその事を思い出す。名字があるという事は、2人は現役の筋肉貴族か高級文幹の子供。

 そして2人の名字に心当たりがある。ミトさんの名字はハムストリング侯爵と同じ。そしてサダハルの名字はトライセップ侯爵と同じだ。


 なんて事をスグルたどころも口にださない。代わりにたどころがしたのは別の質問だ。

 

「2人とも元々こちらに住んでいるんですか?」


「ミト姉は昔からだけれどさ。僕は2年前からだ。家はバリンにあるけれど、学校はここの方がいいからという事で引っ越してきた」


 なるほど、俺と同じか。そう思ってそして気づく。ミト姉!? どういう事だ。


「今日から同じ学年だしミト姉は無いでしょう」


 ミトさんがそんな事を言った。つまり僕の聞き違いでは無い。


「どういう関係なんですか?」

 

「姉弟ではないです。単に親同士が知り合いだったから頼まれたんです。王都も学校もはじめてだから姉だと思って面倒をみてやってくれと」


「当時は僕が2年でミト姉が4年。身長もミト姉の方がずっと高くてお姉さんって雰囲気だったから」


「身長は1年で追い越されました。それに今年はついに学年も追いつかれてしまいました。学習成績も超されちゃいましたしね」


『席順は成績順らしいな。つまり成績1番がサダハルで2番がミトさん、3番がスグルという事だ。1組は成績順で1番のクラスだから、学年でもこの順位という事だな』


 田常呂たどころ浩治こうじスグルに補足説明する。

 そして会話はサダハルへと移っている。


「ただこれが実力かは不明だけれどさ。何せ試験成績の半分はミト姉のおかげだ。5年の内容で重要なところは全部ミト姉に教わったから」


 なるほど、そういう関係か。何故かわからないけれど俺はほっとした。


『いや安心するのは早い。本当の姉弟というわけじゃないんだから』


 田常呂たどころ浩治こうじスグルにそう言って、そしてミトさんに尋ねる。


「教室内でサダハル君と知り合いという感じじゃなかったのは、何かあるんですか」


「知られると面倒な事が多いから」


「スグル君には言っても問題ない。スグルの家ってパクトラリス侯爵だろ」


 サダハルも俺と同じステータス閲覧スキルを持っている。だからバレるのは予想内だ。


「ええ。ご存じでしたか」


 ミトさんがいるからか、田常呂たどころ浩治こうじはスキルには触れないようだ。


「知っていたわけじゃない。

 うちの父はトライセップ侯爵で、今度パクトラリス侯爵の長男が義務教育学校初等課程入校だと父から聞いていたんだ。だから多分スグル君がそうだろうと思ってかまをかけてみた。

 あとミト姉の父はハムストリング侯爵。学校では内緒にしているけど」


 なるほど、そういう言い訳で来たか。でもまあ問題ない。

 それにしても筋肉侯爵4人のうち、3人の子供が同じクラスに来てしまった訳だ。これは偶然だろうか。それとも何か筋肉神テストステロンの意図とかがあるのだろうか。


「わかりました。僕も家の事で特別扱いされると困るので、学校ではお互いこの件には触れない方針でお願いします」


 たどころの返答にサダハルは頷いた。


「そうしてくれると僕も助かる」


 これで僕も家関係について、少なくともこの2人に対しては気にしないですむ。そう思った時だ。


「ところで先ほどスグル君が校舎の裏で筋肉審判をした時、3人目を変わった方法で倒したよね。あれって何?」


 スグルも疑問に思ったあの方法の事だ。


「僕とあの時の相手とは体格が違いすぎます。急所狙い以外の打撃ではあまり効果がないでしょう。しかし既に急所狙いは2人に使ったから用心される可能性が高い。だからああやって相手の体格と力を利用してみたんです」


「あれはスグル君が自分で考えたの?」


 他の世界の記憶にあった動きだ、なんて事は言えない。田常呂たどころ浩治こうじはどう説明するつもりだろう。


「昔どこかで読んだ本に載っていたものです。うろ覚えなので正しい動きだったのかは自信ないですけれど」


 田常呂たどころ浩治こうじ、うまく誤魔化した。


「もし良かったらだけれど、教えてもらえないかな?」


『俺は空手と水泳は経験あるけれど柔道はうろ覚えだからなあ。それに女子だし。男子相手の寝技なら得意なんだが』


 田常呂たどころ浩治こうじがまたわけわからない事を言っている。


『教えてやろうよ。確かに身体が小さいと不利というのは確かだしさ』


『スグルがそう言うなら仕方ない。ただ俺も柔道の立ち技は専門外だからな。あまり期待するなよ』


 田常呂たどころ浩治こうじは脳内でスグルにそう言った後、ミトさんの方を見る。


「教えるという程しっかりわかってはいません。何せ昔、本で読んだだけで、それもうろ覚え状態ですから。それでもよければいいです」


「ありがとう」


 ミトさんに喜んでもらえると何か嬉しい。


『重症だな。しかも自覚がないし、自分で会話すら出来ないし』


 こういう場合の田常呂たどころ浩治こうじのコメントはいつも通り無視する。


『事実は人を傷つけるからか』


 無視だ、これも。

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