第17話 筋肉審判
筋肉審判、それは筋本位制における争い事の解決手段だ。武器を持たずに戦って、勝利を収めた方の言い分が認められる。そんな原始的な裁定方法である。
筋肉審判の種目は身体を使うものなら何でもいい。ただし種目を定めず単に筋肉審判と言った場合、通常は自由戦闘だ。
もちろんこれでは喧嘩が強い者が圧倒的に有利になる。だから筋肉審判が一般的な場で実際に用いられる事はほとんどない。
しかしそれでも筋肉審判は無効では無い。双方が真に自分の意思で筋肉審判を行う事を宣言した場合、その審判結果は法的にも有効なものとして取り扱われる。
なお審判の過程で当事者間に生じた損害については一切の責任をとる必要はない。
なら3人はどれくらいの強さなのだろう。
『大丈夫なのか、どう考えても不利だろ』
『心配いらない。試してみたい事がある。筋力の違いが戦力の決定的差ではないということを教えてやる』
『あと
その
『ああ、証言要員としてちょうどいい。いなければいないなりに楽しい事が出来たんだけれどな』
楽しい事という部分に不潔というか近づくとやばそうなニュアンスを感じる。これは俺の気のせいだろうか。
「いいのかよ、そんな事を言って」
背の高い
「3人でないと脅しをかけられないような落ちこぼれ、正直全く怖くないですからね。実力の差がわかって逃げたいのなら止めませんけれど」
「おう、そっちがそれなら文句はねえぜ。だろ」
「勿論だ」
「ああ」
「なら三対一の筋肉裁判に同意という事でよろしいですね。僕は一切強制しませんが、本当にそれでいいんですね」
「くどい! てめえはどうなんだよ」
「勿論同意ですよ。それでは筋肉裁判、相互の同意の下に開始という事で」
「なら後で泣くなよ」
殴りかかってきた奴をさらっと躱し……いや違う。躱すと同時に相手の股に思い切り蹴りを入れた。明らかに急所狙いだ。
「うげっ」
これは痛いだろう。案の定蹴られた奴は奇声を発した後、うずくまって動きを止める。
『やはり速度が20違うと圧倒的だ。あとこの身体、面白いほど自由に動く。体重差が大きくて素直な打撃技がほとんど効かないが問題ない』
「さて、次の馬鹿はどちらですか」
先ほど地面に顔面ダイブした奴が迫ってきた。先ほどの反省からか殴るのではなく掴みかかろうとする。
「確かにその方がお利口かもしれませんね。ただし」
痛い!
『単なる頭突きだ。身長差があるからきれいに顎に決まった』
俺も痛いが相手はそれ以上だったようでふらついて倒れかける。そのすきに
ぼきっ。鈍い不吉な響き。一瞬遅れて相手が悲鳴をあげる。
「3対1ですから、1人はこの辺で戦闘不能になってもらわないと。利き腕で無いのはせめてもの情けです」
『俺は馬鹿とだらしない尻と衰えた括約筋は許せない。死ねばいいのにと前から思っている』
『死ねばって殺したらまずいだろう』
『殺しはしない。死ねばいいのにと思うだけだ。ただ万が一やり過ぎてもいいよう保険はかけた。筋肉審判なら最悪殺しても法律上問題無い』
おい
状況を確認する。股間を押さえている
「てめえ、よくもやってくれたな」
「記憶力が悪いですね。ここへ連れてきたのは貴方方ですよ」
「うるせえ!」
殴りかかってくる。今度は
「くっそちょこまかと」
実はもっと余裕を持って避けることも、先ほどと同じ程度の攻撃をする事も出来るだろう。それは同じ身体を使っている
どうやら
校舎の壁が背後に近づいた。
「馬鹿め!」
勝ったと思ったのか、敵が大ぶりで腰を入れすぎた右パンチを繰り出してきた。
『待ってた!』
男子
『思った以上に決まった。柔道は専門外なんだけどな』
『今のは何だ? 知らない動きだった』
僕は戦い方の本についてもある程度読んでいる。先ほどつかった頭突きや急所蹴りもわかる。しかし今の動きは知らないものだ。
『前世にあった武術の技だ。背負い投げ、いや背負い落としか。この世界でもこういった技が通用するか試してみた』
なるほど。試してみたいというのはこの事か。それはわかったが、他にも疑問というか懸念がある。
『あとでもこれ大丈夫か?』
3人の状態だ。目の前の男は気絶しているだけでなく、何か身体がだらんとしている感じがする。股間を押さえている奴はまだ復活していないし、左腕を折られた方もその場から動けそうに無い。
『それなりに頑丈そうだから大丈夫だろ多分。ただ後の為に始末はしておこう。幸い見物人もいる』
「ミトさんすみません。職員室に行って先生を呼んできてくれませんか。僕がここから動くと逃げたと判断される可能性が否定できませんから」
ミトさんが曲がり角から姿を現した。
「わかりました。先生を呼んできます」
「お願いします」
『意識があると痛さで苦しいだろう。武士の情けだ。楽にしてやろう』
武士が何だかわからないが、不安を感じたので確認しておく。
『楽にしてって、まさかとどめを刺すわけじゃないよな』
『そこまで俺もえげつない事はしない』
いや信用できない。そう思った
『気絶撃はまだ自信が無い。だからちょい派手になるが仕方ないだろう』
「フロント・ラットスプレッド!」
何故か尻を突き出した形で倒れた1人を見て
『こんな奴ら、掘る価値も無い』
ふっとわざとらしいため息をついて、そして
「大分弱っていたようです。服が破れない程度の
これでミトさんが先生を呼んでくるまでの間、誰の耳もありません。この状況で僕に聞きたいことがあるんじゃないですか、サダハル君」
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