第16話 学校1日目のお約束

「ところでスグル君は何処から通っているの?」


「ザバス町の2丁目です……」


 会話は田常呂たどころ浩治こうじに任せておこう。

 スグルはクラス全体、見える範囲の筋力値を見てみる。ミトさんを除くと概ね60~65くらい。


 一般の大人が50前後、そして生徒トレーニーのほとんどは現在11歳。そう考えるとなかなか優秀だ。初等課程とはいえ最高学年の最上位クラスだけある。


 そんな事を思った時だった。

 ジャーン! 教室の外からそんな音が鳴り響いた。


『銅鑼の音に似ているな』


 田常呂たどころ浩治こうじはそう言うが、俺は知らない音だ。ただ鳴らすために作った人工物の音だろうという事は想像できる。


「あ、そろそろ席つかないと。それじゃミトちゃん、スグル君、またね」


「ええ」


 席は何処だっけ。確認する前に田常呂たどころ浩治こうじが歩き始める。


『窓際の前から3番目』


 そうだった。その辺の感覚がまだつかめない。早くこの辺の感覚に慣れないと。

 俺の席の前はミトさん。この距離で後ろからずっと見ていていいのかと思うが、どうやらそれは問題ないようだ。


 ついでにミトさんの前に座っている男子生徒トレーニーのステータスを見てみる。


『サダハル・ジェイ・カトラー 8歳 身長160.5cm 体重50.6kg

 筋力78 最大103 筋配けはい80 持久75 柔軟75 回復95 速度75 燃費38

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』 


 こいつも3つ目の名字がある。しかし問題はそこではない。能力値だ。

 どの能力も俺より高い。しかもこんなにでかいのにまだ8歳だ。何より気になるのは特殊能力。俺と同じだ。となると……

 更にとんでもない称号がある。


『称号:勇者(公認前)』


 こいつだ。筋肉神テストステロンに選ばれ異世界から召喚された、冗談みたいなスペックの勇者。俺がマッチョ帝を目指す最大の障壁だ。


 俺より2歳上だが学年は同じ。ただし筋力は俺を上回っている。身体的にも大きさがまるで違う。勝てるだろうか、こいつに。


 そう思ったところで一段大きな筋配けはいが近づいてくるのを感じた。何だ、敵か!?


『この学校の教師だろ』


 そうか、学校だから教師がいて当然だ。

 入ってきたのはうちの父と同じような体型のごつい男だ。ついでだからステータスを見ようとした時。

 

「起立!」


 先ほどステータスを見たサダハルがそんなかけ声をかける。何だ!? そう思った俺を無視して田常呂たどころ浩治こうじが立ち上がった。

 何故だ、そう思ったら皆が席から立ち上がっている。どうやら学校にはそういう風習があるようだ。


「礼、着席」


 田常呂たどころ浩治こうじが身体を動かしてくれたので、俺は教師のステータス確認を実施。


『ショー・ジナ・カーヤマ 43歳 身長177.2cm 体重73kg

 筋力165 最大201 筋配けはい108 持久50 柔軟52 回復54 速度52 燃費41

 特殊能力:大声1+』


 筋力値は悪くないのだろうがリサの方が上だな。リサは俺の力ではまだ筋力値を確認出来ないから。


『しかし肉体的にはいい感じだぞ。あの尻、良く締まった感じだ』


 田常呂たどころ浩治こうじは人の筋肉を尻中心に評価する癖がある。普通は大胸筋とか腕だろうと俺は思うのだが。


『いや、括約筋は重要だ。あれのしまりがわるいと……』


 いつも通り怪しい話になりそうなので無視する。


「 ヤー! 今年6年1組の担任を……」 


 教師が話し始めた。


 ◇◇◇


 始業式なる式に参加し、朝昼食として配られたゆで卵とバナナを食べて、何やら説明をひととおり聞いたら今日の学校は終わり。

 さて、それでは帰って昼食を食べて勉強トレをするか。そう思って鞄を背負って廊下に出たところで。


「よお、1組に飛び級してきたスグルってのはお前か」


 体格だけはいい男子生徒トレーニー3人に囲まれた。何だろう。そう思いつつ返答する。


「ええ、そうですけれど」


 何だろう。3人とも1組では見なかった顔だ。なお田常呂たどころ浩治こうじニヤニヤしながら俺と3人の反応を見守っている。

 もちろん実際にニヤニヤしている訳ではない。そういう感情だなとわかるだけだ。


「ちょっとそこまで筋肉貸せや」


「いいですよ」


 この返答は田常呂たどころ浩治こうじだ。何というか田常呂たどころ浩治こうじ、凄いウキウキしている感じなのがわかる。

 これは何か楽しいことが待っているのだろうか。


「お、おう、そうか」


 何故か今のたどころの返事、男子生徒トレーニーにとっては想定外だった模様。

 

『こいつらは俺に任せろ。試したい事ある』


 とりあえず田常呂たどころ浩治こうじに任せることにする。俺には状況がよくわからないし。


 3人に連れられて来たのは校舎の陰、人通りがあまりなさそうな場所だった。


「これはほとんど人目が無くて良さそうな場所ですね。それで皆さんはどんな御用件ですか?」


「今からでも遅くねえ、飛び級を5年までにするか、コースを文幹コースに変更しろ!」


 どういう事だ!? 俺にはわからない。しかし田常呂たどころ浩治こうじはその言葉の意味を理解しているようだ。


「なるほど用件はそれですか。という事は皆さんは飛び級の3人に成績で負けて筋士団きしだんコースから落とされた。そういう理解でいいでしょうか」


 田常呂たどころ浩治こうじ、嬉々として言っているのが俺にはわかる。実際の口調の丁寧さもわざとらしい。


「くそう、ふざけやがって」


 3人のうち1人、芽が出てしなびたジャガイモのような顔の生徒トレーニーが殴りかかってきた。でも動きがあまり早くない。たどころは最小限の動きで左にかわす。


「この程度で無意味に拳を振るうとは教育トレの敗北ですね。だいたい不法な暴力なんてやったら筋配けはいでバレバレでしょう。学習が足りない。まあだからコース落ちしたのでしょうけれど」


「この野郎!」


 さらに1人が殴りかかってきた。今度はたどころ、避けるだけでなく足を軽く蹴り上げる。

 殴りかかってきた生徒トレーニーは思い切りつんのめって顔から地面に突っ込んだ。 

 

「頭も悪いし動きも遅い。でもまあ折角ですからチャンスはあげましょう。このまま三対一でいいのでをしましょう。あなた方が勝てば、僕はおとなしく5年生になる事にします。もし僕が勝っても別に貴方方に何かを求めるなんて事はしません。

 さあ、どうしますか?」

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