第2部 2人の勇者と俺と俺

第5章 入学! いきなり最終学年!

第15話 祝・入学 そしてコミュ障発覚

 5年生までの教科書を全部読破。教科書に載っていた勉強トレ方法も全部おぼえた。


 難易度的にはそれほどでもなかった。ほとんどの内容は勉強トレ・学習済みだったからだ。強いて言えば一般の本にはなかった教科書だけの用語や勉強トレ方法を覚えるのが面倒だった位。


 さて、今日は始業式だ。

 入学式に参加した生徒トレーニーは新入生だけで保護者リサも一緒。しかし今日からは保護者無しで、しかも俺以外は6年生という環境。今までに無かった不安でいっぱいだ。


 若干緊張しつつ昇降口から3階へ上がる。周囲はもう俺よりずっと大きい生徒トレーニーばかり。3階は5・6年生用だから当然。それはわかっても落ち着かない。


 さて、集合場所である6年1組は何処だ。廊下に出ている教室の表示を見て探そうとした時だ。


「ここから先は6年の教室ですけれど、こちらでよろしいのでしょうか」


 俺にかけられた声だと理解するのに半秒ほどかかった。振り向くと俺より拳2個分程度身長が高い女子生徒トレーニーが立ち止まってこっちを見下ろしている。


 どうしようか。一瞬戸惑った俺の声帯を田常呂たどころ浩治こうじが乗っ取った。


「ありがとうございます。6年に飛び級してきたスグルと申します。1組はこの先でいいでしょうか」


 なんだ田常呂たどころ浩治こうじ、こんなまともな事も言えるのか。いつもの脳内音声とえらい違いだ。


 なんて思っていると女子が笑顔で頷いた。何故かはわからないが俺の心臓がいつもと違う鼓動になる。


「そうですか、優秀なのですね。それでしたらもしよろしければ私と一緒に行きましょうか。私も同じ1組ですから」


「おねがいします。此処は不慣れなので助かります」


 これも田常呂たどころ浩治こうじが話している。俺の方は何故か微妙にそれどころではない。

 

「私はミト・アレクサンドラと申します。今年一年よろしくおねがいします」


「スグル・セルジオです。宜しくお願いします」


 これも田常呂たどころ浩治こうじが勝手に答えた。ただちょっと疑問が生じたので聞いてみる。


『何故オリバ姓をつけないんだ?』


『3つめの名字を持っているのは現役の筋肉貴族家と高級文幹家だけだ。そんなのバレたら面倒だろ』


 なるほど一理ある。しかし田常呂たどころ浩治こうじが役に立つというのは妙な感覚だ。何かが間違っている気がする。


 彼女の横に並んで歩いて行く。ミトと名乗った女子生徒トレーニーは俺よりは身長が高いが周囲から見ると小柄な方だ。身体も細め小さめでそれほど筋力があるようには見えない。


 あと彼女を見ているとなぜか心臓の動悸がいつもと違う。不整脈だろうか。それとも何かの病気だろうか。


『病気じゃない。慣れればそんな事はなくなる。というか会話もできないのは純情ではなく陰キャだな。まあ知人以外で同程度の人間と話をする機会がほとんど無かったから当然か』


 一部意味不明な言葉があるが、酷い事を言われているのだけはわかる。

 しかしこの微妙に慣れない場は田常呂たどころ浩治こうじに頼るしかない。不本意だけれど。


『それにしても同じくらいの年齢ではなく自分より上にこういった反応するのか。それとも相手が小柄だから感じやすかったのだろうか。

 それとも体操服&ブルマが大勢いるから興奮するのだろうか。それは確かに認める。21世紀日本では見られなくなった美の風景だ。まだ男女性差があまりない身体の……』


 何やら田常呂たどころ浩治こうじが危険そうな事を思っているようだが無視、というかシャットアウト。


 ミトさんと一緒に教室に到着。当たり前だが俺より大きい生徒トレーニーばかりだ。俺よりは大きいミトさんもここでは最小クラス。

 田常呂たどころ浩治こうじはさっと右側の教室壁を見る。白い板に紙が3枚貼ってあるのを確認。


『1人当たりの広さは倍以上あるが、あとは俺が前いた世界の教室と概ね同じ構造だな』


『どういう事だ?』


『今のはこの教室についての感想だ。それじゃ自分の席に座るぞ。窓際の前から3番目だ』


『自分の席?』


『黒板に貼ってあったのを見ただろう。あれは座席表だ』


 そうたったのか。俺には何を表しているのかわからなかった。


 それにしてもさっきから田常呂たどころ浩治こうじのペースだ。理由はわかる。俺は学校という場所を知らない。田常呂たどころ浩治こうじは別の世界のものだけれど知っている。


『あと前の席はそのミトさんだ。仲良くしておくにこしたことはないかもな』


 教室を横切る形で自分の席に向かおうとしたところで。


「やっほー、ミトちゃん。なんとか今年も1組をキープしたよ」


 ミトさんよりは大柄な、でも全体からみれば中肉中背くらいだけれど色々発達がいい女子生徒トレーニーがミトさんに声をかける。


「どうも。同じクラスでよかったです」


「こっちもだよー。またよろしくね。それで一緒の子は誰? 見たことないから飛び級だと思うけど」


 俺より早く田常呂たどころ浩治こうじが反応した。


「はじめまして。飛び級で6年になりましたスグル・セルジオと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「はじめまして。フローレンス・グリフィスだよ。フローラと呼んでくれると嬉しいな。

 それにしてもやっぱり飛び級なんだ。でも小さいよね。実年齢今何歳?」


「6歳で、今年で7歳になります」


 これも田常呂たどころ浩治こうじの返答だ。俺だとすぐには言葉が出てこない。こういう会話に慣れていないからだろうけれど。


「お、すごい。全学年すっ飛ばし。筋士団きしだんコースだと1年飛び級もまずいないのに」


「そうなんですか」


「そーだよぉ。でも今年は3人いるみたいだね。1組にもう1人4年から飛び級してきて、3組にも5年予定から1人飛んできたみたいだから」


「優秀ですよね、2年飛び級出来るなんて」


 これはミトさんだ。


「ミトちゃんだって2年飛んでるじゃない。いきなり3年に入学だから。普通はそーゆーの、まずいないんだからね。私なんかかろうじて1組残れたけれど、ぎりぎりだもんなあ、多分」


「3年の時は助かりました。周りは皆大きくて怖く感じた中、フローラが話しかけてきてくれて」


 その時以来の友人という訳か。そしてミトさんは2年年下だから周りより小さいのは当然。なるほど。

 そう思ってふと気づいた。そういえばステータス閲覧能力でそういったことがわかる筈だなと。


『スグル・セルジオ・オリバ 6歳 身長116.7cm 体重21.7kg

 筋力63 最大87 筋配けはい75 持久75 柔軟75 回復90 速度75 燃費40

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶』


 能力を起動するとまず自分のステータス画面が出てくる。これらの数値のうち筋力と筋力最大、筋配けはいはいくらでもバルクアップするが、持久力や柔軟力、回復力や燃費はあまり変わらないらしい。

 なお俺の場合は筋肉神テストステロンの恩寵で特殊能力が4つついている。


 さて、ミトさんはどんな感じだろう


『ミト・アレクサンドラ・シェラスコ 9歳 身長127.5cm 体重26.9kg

 筋力52 最大62 筋配けはい60 持久75 柔軟63 回復63 速度75 燃費50

 特殊能力:有酸素活動範囲2+ 速度2+』


 筋力は大人の普通とあまり変わらない。9歳でそれだけあるのはなかなか凄いけれど。ただ持久75はかなり高いし特殊能力も2つ持っている。


 あと俺と同じく3つ目の姓を隠していたようだ。そしてこの姓には聞き覚えがある。筋肉貴族序列第3位、ハムストリング侯爵がシェラスコ姓だった筈だ。


 ということはミトさんも俺と同じように親を隠しているのだろうか。それとも単に偶然姓が同じなのだろうか。


『今は聞かない方がいいと思うぞ』


 田常呂たどころ浩治こうじからそんな注意が来た。流石にそれくらい俺だってわかっている。


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