第14話 合格? それに……

 試験は間違いなく大丈夫だったと思う。

 すくなくとも与えられた課題は完璧だった筈だ。

 それでも学習側の問題にはケアレスミスなんてのがあったかもしれない。


 だから少しだけ不安という状態で、学校で行われている合格発表へ。

 合格者掲示板には人が群がっている。しかし問題はない。


「後ろから確認してくる」


 俺はあえて掲示板の直前から離れた人がほとんどいない後方へ。

 掲示板の正面から40mくらい離れると周囲には誰もいない。ここでいいだろう。俺はそう判断して、軽くジャンプした。鍛えられた視力で掲示板の名前一覧を見る。


 発表は試験受付時に渡された番号順だ。810番は……

 無い! 809番と812番はあるのに間に810番がない。


 見間違いだろうか。再度ジャンプして確認する。結果は同じだ。809番と812番間に810番がない。念の為俺の名前が他の場所に書いていないかも確認する。無い。


 落ちた。何がまずかったのだ。やはり学習問題に何かとんでもないミスでもあったのだろうか……


「お坊ちゃま、左の掲示板ですよ」


 リサの声で我にかえる。どういう事だ。左の掲示とは?

 今見ていた掲示板の左の方を見る。同じように合格者が掲示されているように見える。しかしよく見ると掲示に余分な記載があるし番号らしきものも飛び飛びだ。


「帝立学校には一般合格と特別合格があります。お坊ちゃまに試験の様子を伺って、これは特別合格の方だろうと思っていましたけれどやはりそうでした。特別合格、それも最上位の6年次扱いです」


 どういう意味だろう。わからないままジャンプし、そちらの掲示板を確認する。確かに一番下に『6年次(筋士・文・筋専・一)、810番 スグル・セルジオ・オリバ』とあった。

 掲示板の上を確認する。こちらは『特別合格者』と書かれている。そして先程見た掲示板は『一般合格者』だ。


 特別合格者の方は人数が少ない。全部で30名程だ。しかも受験者の番号と名前の他に、年次という記載がある。

 上から順に2年次、3年次と続いていく。2年次が23名で3年次が6名。そして6年次の俺だ。


 とりあえず合格はしたようでほっとする。しかしこの特別合格とはどういう意味なのだろう。

 リサはわかっていそうなので聞いてみる。


「特別合格者とは何なんですか? 一般とどう違うのでしょうか?」


「初級義務教育トレ学校が1年生から6年生までなのは、お坊ちゃまならご存じですね」


「ええ」


 そらくらいは知っている。そう思って気がついた。なら2年次とか6年次というのは……


「帝立学校には飛び級が存在します。各学年で教える内容をすでに獲得済みと判断した場合、年齢的に履修する学年にかかわらず、適当な学年に進める事となっています。


 特別合格とはこの飛び級で合格を認められたという事です。お坊ちゃまは6年次合格ですから、6年生として入学する事になります。


 学校の枠を超えた飛び級は認められていません。ですからこれが最上級の合格です。括弧内は5年生からある専攻の何処へ行けるかですね。その辺は後で説明します」


 という事は、つまり……


「これからが大変ですよ。6年次合格となると5年次までの勉強トレ内容や学習内容が全て出来ていて当然という事になります。


 飛ばした1年次から5年次までの教科書は今日の手続きで受け取れる筈です。帰ったら入学式までの間、みっちりと勉強トレと学習です」


『うげっ!』


 田常呂たどころ浩治こうじの奇声が脳内に響いた気がする。しかし勿論いつも通り無視。

 学習そして勉強トレ浸け、望むところだ。だいたい記憶を得た後ずっとそんな生活だったのだ。問題はまったくない。


「さて、それでは手続きに行きましょう。教科書の受け取りがありますし、5年次以上にある専攻を選択する必要もあります」


◇◇◇


 専攻は、

  ○ 筋士団きしだんコース

  ○ 文幹コース

  ○ 筋肉専門職コース

  ○ 一般コース

とあるそうだ。


「お坊ちゃまは筋士・文・筋専、一とありますので、4つの専攻どれでも6年生として選択可能です。


 そしてこの中では筋士団きしだんコース一択です。文幹コースは筋士団きしだんコースには筋肉が足りない者。筋肉専門職は筋士団きしだんコースや文幹コースほど学がない者。一般コースは筋肉も学もない者という意味ですから。


 中等義務教育トレ学校になると筋士団きしだんコースでも学習程度によって別れます。更に高等義務教育トレ学校になると筋肉の専門によって更に専攻が細分化します」


『筋肉の専門って何なんだよ』


 田常呂たどころ浩治こうじは無視して筋士団きしだんコースを選択。

 そして資料、更には5年次までの教科書を受け取る。これだけでかなりの量だ。


「持ち帰りは大丈夫でしょうか」


 学校の事務担当の言葉にリサは微笑む。


「ご心配なく。こんな事もあろうかと準備はして参りました」


 リサは背負っていた背負子から握りこぶし2つ分くらいの包みを取り出す。広げると大きな袋となった。そこに教科書や資料を詰め込んで、背負子にセットし直す。

 何となく予定通り、という感じがした。


「それでは手続きは以上となります」


「わかりました、どうもありがとうございました」


 校舎を出たところで聞いてみた。


「ひょっとしてリサは、教科書等で荷物が多くなる事を予想済みだったのでしょうか」


 リサは頷いた。


「ええ。想定外は王都トリプトファン到着前に人攫いと会敵した事だけです。お坊ちゃまの実力なら6年次合格は当然ですから。

 私だけで無く御父様も御母様もそう思っていらっしゃいます。御母様はいきなり6年まで飛び級だと苦労するのでは無いかと心配していらっしゃいましたけれど」


 なるほど。何と言うか色々してやられたという感じがする。しかしまあ仕方ない。俺はまだ世間知らずの6歳児だから。


 何せ今まで父母やリサ、雇い人以外とは会話することすらほとんどなかった。例外はたまに外に遊びに行った時に会話する街の人や同じくらいの子供、あとは時々たまに仕事の関係でやってくるシュレイテス男爵くらい。


 しかも最近は勉強トレと学習でそんな事もしなくなっていた。

 しかしこれからは学校がはじまる。6年生、それも筋士団きしだんコースなら周りもそれなりの生徒トレーニーだろう。


 俺の新たなステージが始まるわけだ。筋肉の最高峰、マッチョ帝を目指す為の。

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