おまけ 田常呂浩治の独り言

 俺はスグルで、田常呂たどころ浩治こうじだ。スグルの人格は田常呂たどころ。しかし間違いなく同一人物で同一人格だ。


 実際思考そのものはスグルとしての人格より田常呂たどころ浩治こうじの影響の方が強い。自分で思考する際の一人称が俺であるのもその一端だろう。


 もともと6歳少年と24歳青年では思考の質と量とが段違いだ。田常呂おれの記憶と思考を取り戻した際、スグルの記憶と思考が田常呂おれに取り込まれた。それが正直なところだと思う。


 それでもスグルの人格は田常呂おれを別人格だと思うようにしている。この辺はおそらく筋肉貴族家の長男というプライド、そして筋肉至上主義とも言える思想のせい。


 そんな6歳の狭量な視界と思考では異世界の24歳を理解出来ないし認められなかった。田常呂おれを別人格としている理由はそれだけだ、きっと。


 田常呂おれはそれで構わない。

 そもそも身体は6歳児だ。ならば表に出る思考や行動は6歳児に近い方がいいだろう。


 それにスグルが何かしたい、選択したい、判断が必要という時。そこに田常呂おれの意思は確実に反映されている。実のところスグル側以上に決定権を持っていたりする。

 スグルが気付かない、あるいは認めていないだけで。


 だから田常呂おれとしては当面このままで行くつもりだ。田常呂おれとして問題はないのだから。


 そしてこのアナボリック世界、実際に来てみるとなかなか悪くない。来る時は大分迷ったが、実施に暮らしてみるとなかなか楽しいしわかりやすい世界だ。

 

 元々地球の田常呂たどころ浩治こうじは空手部所属で、ジム等で自主トレ等もしていた。半分は通っているトレーニーの尻を眺めるのが目的だったりもするけれど。


 それでも自分の身体はそれなりに鍛えていた。だから鍛錬という事そのものは嫌いではない。まあ地球ではちょっと挫折してステロイドのお世話になったりもしたけれど。


 更にこのアナボリック世界、少なくともビルダー帝国には俺好みの見た目の人間が多い。たとえばシュレイテス男爵、引き締まった細マッチョな身体、特に尻のあたりがいい感じだ。


 ただし父であり筋肉侯爵であるマユミはあまり好みではない。田常呂おれの美意識では筋肉ダルマ系は対象外なのだ。


 家の使用人の中では俺専用メイドのリサがいい。女だがなかなかいい身体をしている。あれは相当に鍛えていると見た。男だったらもっと良かったのだけれど文句は言わない。


 そんな訳で今日も俺はスグルという身体と表層思考を纏っている。いつか田常呂おれがスグルとして出るべき時がくるその日まで、自分でありながら別人格を装いつつ。


※ 田常呂たどころ浩治こうじ君は男性に性的衝動を抱くタイプです。リサに対して『男だったらもっと良かった』というのはそういう意味です。

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