第12話 筋肉の名前言えたなら♪

 手刀と足払いを5回ずつくりかえし、やっと玄関まで到達。

 結局手刀では2mくらい、足では50cm位しか刈ることができなかった。


「今日はこのくらいにしておきましょう。この勉強トレはあまりやると腰を悪くしますから」


 なるほど。でもこのままにしておくのは微妙に悔しい。

 だからリサに聞いてみる。


「この手刀や足払い、何処の筋肉を鍛えればもっと刈れるようになるでしょうか?」


「お坊ちゃまは筋肉そのものについては相当に鍛えています。ですので問題は筋肉の使い方、動かし方です」


 その辺りも鍛えているつもりなのだけれど。そう思った僕の前で、リサは両拳を握った殴り合いの基本姿勢をとる。


「このポーズからのパンチが一番わかりやすいかと思います。惹きつけた右拳を真っ直ぐ高速で撃ち出す。この動作を①手を開いて軽く指を揃えた状態、②拳を軽く握った状態、③拳を力を入れて握った状態の3つで試してみて下さい」


 どれどれ、意味はわからないけれど早速試してみる。まずは開いた状態から。普通に動く。特に何も問題は感じない。


 次に軽く握った状態で同じ事をやってみる。あれ? 若干の違和感を覚えた。手を開いた状態より遅く、筋肉を余分に使ったように感じたのだ。


 そして強く握った状態。これはもう明らかだ。より筋肉を使うし、全力でやっても他の状態より遅い。

 念の為平手で試してみる。間違いない。こっちの方が楽で速い。


「随分違うんですね。比べないとわかりませんでしたけれど」


 リサは頷いた。


「その通りです。ですので全力で敵を殴る場合は当たる直前まで拳を強く握らない、というのがより効率がいい方法になります。このような形で実際に動かす筋肉以外の部位も大きく影響してくる訳です。


 また筋肉を有効に動かす勉強トレも必要となります。これは筋肉を育てる勉強トレとはまた別のものです。今後はそこも意識するようにしましょう」


 なるほど。


「育てるのも動かすのも別の勉強トレなのですか。難しいですね」


「ええ。その辺りは従来の理論を学習したり、自分の筋肉の動きを観察したりする必要があります。ですが難しいのは確かで、両方をバランス良く出来ている方はそういないのが現状です。

 とまあ難しい話はここまでにして、家に入りましょう」


 家の外見は2階建ての、見かけはごく普通の丸太造だ。

 中へ入ると2m四方くらいの玄関。吹抜になっていて2階の廊下端っぽい場所が見える。


「1階はリビング兼トレーニング室、風呂、洗面所、トイレ、キッチンです」


 玄関から入って左の扉を開けると広い部屋だ。ソファーとテーブル、本棚といった家具の他、そしてダンベル、腹筋ローラー、プッシュアップバーといったトレーニング道具が置かれている。

 部屋の奥側にはカウンターがあって反対側がキッチンだ。


 そして玄関正面の扉を開けると洗面所。ここに扉が2つあり、片方がトイレ、もう片方が浴槽付きの風呂となっていた。


「1階はトイレや風呂といった小部屋を除くとリビングだけなんですね」


「この方がシンプルで掃除も楽でしょう。

 2階には寝室が3部屋あります。今回は私と坊ちゃまだけですのでベッドやテーブル等、家具は2部屋にしか置いていませんけれど」


『3LDKか』


 田常呂たどころ浩治こうじのいた世界ではそういう表現になるようだ。何がLだかKだかはわからないけれど。

 玄関からジャンプして2階へ。リサが言う通り3部屋あって、うち2部屋にベッドやロッカー、本棚、机が置かれていた。


「手前の部屋をお坊ちゃまが、奥の部屋を私が使用する予定となっています。あいている一部屋は何か必要があれば使ってもいいですし、そうでなければそのまま空き部屋にしていても問題はありません」


「わかった」


 部屋そのものはそこそこの広さがある。ロイシンの屋敷にある僕の部屋と同じくらいだ。だからまあ、問題はないだろう。


「それでは私は昼夜食を調理します。お坊ちゃまは勉強トレなり試験の学習の見直しなり、ご自由にお過ごし下さい」


 そう言ってリサは1階へと飛び降りた。

 さてどうしようか。そう思って、そして俺は思い出す。既に既定事項という感じになっているけれど、まだ試験前だという事を。


 家でも勉強トレや学習はしていた。しかし一応ここでも確かめておこう。

 僕は自分の部屋に入り、背負っていたランニングバックを下ろす。中から試験問題集を出して、机に持って行って広げて読む。


『筋肉問題その1 身体の筋肉を大きい順に5つ、手で押さえて名称を答えて下さい』


 これは簡単だ。両脚の前太ももの筋肉を両手で押さえて大腿四頭筋。次は両手で両側から尻を押さえて大臀筋。

 3番目は両肩を押さえて三角筋。4番目は太もも裏のハムストリングス。最後が父の称号にもなっている大胸筋、つまり胸だ。


 ビル帝国の幼児はこの筋肉と大きさの順番を歌と踊りで覚えるのが普通だ。『筋肉言えるかな』という歌で筋肉の名前を言いながら両手でその部位を触っていく踊りだ。

 俺も当然15番目の腹斜筋まで全部わかるし場所も触る事が出来る。


 さて、次の問題は何だろう。もっと難しいだろうか。

 

■■■ 蛇足の用語解説 ■■■


○ 筋肉言えるかな

  ここは勿論『ポ○モン言えるかな?BW』の歌とリズムで想像して欲しい。初代ではなくBWなのは単に書き手の趣味。

  なお筋肉の総数は640個らしいので歌にあわせて全部言う事は不可能。それに『大腿四頭筋』のように歌いにくい筋肉があるので辛い気もする。

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