第9話 予想外の予定?

 リサは替えのメイド服を着た。応急措置も一通り終わった。それでも怪我人は一刻も早く病院に連れて行かなければならない。

 そう思うのだがリサは少し考えた後、こんな事を言う。


「どうやら襲撃された方もタチが悪そうです。ここは大人全員に気絶撃をかけるのが正解でしょう」


「どういう事ですか?」


 わからないので聞いてみる。


「この連中はおそらく人攫いです」


 えっ、何故わかるんだ? そう思う俺をよそにリサは遠慮無く気絶撃をかけていく。


「人力車の中を見ればわかると思います」


 どれどれ。

 手前側の人力車の横扉を開ける。なるほど、リサが言った事が正しいようだ。

 中にいた俺と同じくらいの子供達は全員、手足を縛られさるぐつわをかまされた状態で床に転がっている。


「これは盗賊団ではなく仲間割れだったのでしょう。下っ端が武器を持たされて魔物警戒をする。ありがちな構図です。


 あと中にいる子供、もし縄か何かで拘束されているようなら外してやって下さい。姿勢は寝せたままで。倒れると危ないですから」


「わかりました」


 ゴーレム車内に転がっている俺と同じくらいの子供の縄やさるぐつわをほどいていく。呼吸はあるので生きてはいるようだ。

 しかし縄を切るために身体を動かしたりしても意識を取り戻さない。相当しっかり気絶している。

 

 運ぶ為に気絶させられたのだろうか。それともリサの筋肉挑発ポージングで気を失ったのだろうか。わからないが、気を失って転がっている子供というのはなかなかそそるものがある。性差の無さがいい感じで……


 いけない。俺は何を考えているのだ。リサのフルヌードのせいで変なスイッチが入ってしまったのだろうか。田常呂たどころ浩治こうじに汚染され過ぎだろう。気を確かに持たねば。

 そんな事を考えながらゴーレム車2台に載った8人全員の縄とさるぐつわをほどいて、そして外へ。


「それではお坊ちゃま、しばし休憩しましょう。消費したカロリーは摂取しておかないと筋肉が痩せます。

 少し殺伐とした風景で目には優しくありませんけれど」


 目に優しくないというか死屍累々というか。勿論まだ死んではいない。しかし微妙に危なそうなのはいる気がする。こういう状態だと気絶して倒れている男であっても肉体的にそそらない。


 あとここでのんびりしていていいのだろうか。確かに補給は必要だろうけれど。


「急いで知らせに行かなくていいのですか?」


王都トリプトファンまで30kmありません。この距離なら警備担当の筋士団きしだんが私の筋愛きあいに気付ける筈です。

 私達は此処で待っているのが正解でしょう。下手に報告に行くよりその方が早く片付きますから」


 なるほど。俺が街から抜け出したのがバレた時と同じ理屈か。あの時と比べて距離はずっと遠いし、筋愛きあいの大きさも全然違うけれど。


「しかし物騒ですね。16人もの子供を誘拐するというのは。あとこういうのは夜では無く真っ昼間に動くものなんですか?」


王都トリプトファンは大きな街です。残念ながら警備が行き届かない時間と場所もあります。あと人数をまとめて一気に運ぶというのはよくある事です。搬送時は割と見つかりやすいですから。

 あと夜間は筋配けはいが少ないので更に見つかりやすくなります」


 なるほど、昼の方が人の筋配けはいが多い分、見つかりにくいという事か。

 でも疑問はまだまだある。


「あと人力車の中の子は全員僕と同じくらいでした。何か理由があるのですか?」


「義務教育トレに通って1月もすると筋肉の使い方を覚えます。ですので捕まえるのが難しくなりますし、逃げられやすくなります。ですから義務教育トレ前の年齢が一番狙われやすいんです」


「掠ってどうするんですか?」


「労働力として使用するというのが多いと聞いています。スパイン山脈やその先、ビルダー帝国の支配の行き届かない無法地帯で違法薬物ステロイドを生産させたり、犯罪集団の戦力として育てられたり。


 ここに転がっているのはそういった大手の犯罪組織ではないと思いますけれどね。そういった組織の下で動いている、小さな犯罪集団でしょう」


 なるほど。リサの説明でかなり状況がわかった。それにしてもだ。


「リサ、詳しいですね」


筋士きしをやればわかる話です。そういった犯罪の取締りも仕事のひとつですから。

 ただ女子隊はそういった戦闘の現場は滅多に出してくれませんでした」


 リサは筋士団きしだんに対して何か複雑な思いがあるようだ。その辺についての細かい事は俺は知らない。何せ俺自身は6歳のガキでしかない。


 ただそれでもリサはあの街脱走事件以来、ある程度はそういった話もしてくれるようになった。勉強トレについても教えてくれるようになったし。


 もう少し学校入学まで時間があれば、リサともっと色々な話が出来たかもしれない。そう思うと残念だ。

 あ、でも。また気になる事が浮かんだので聞いてみる。


「僕が王都トリプトファンに行ったら、リサはどうするんですか? 僕担当のメイドの仕事は無くなりますよね」


「いえ、お坊ちゃま担当は継続です。坊ちゃまは義務教育トレでは満足しないだろう。だから王都トリプトファンへついていって鍛えてやれ。そう命令を受けていますから」


 えっ! そうなのか! 当事者なのに初耳だ。


「そうなんですか? でも住む場所は?」


 まさか学習者トレーニー用の寮に一緒に入るわけにも行かないだろう。


「お坊ちゃまは義務教育トレだけでは満足出来ないでしょう。おそらく筋力の確認として魔獣や魔物と戦って力を試したくなる筈です。


 寮に入れても勝手に抜け出すのは目に見えています。それが見つかって規律違反となった結果退学になる。それよりは最初から寮以外に住んでいた方が無難です。


 そうお父様は判断しました。ですので王都トリプトファンでは寮ではなく家を借り、私と2人で住むことになっています。


 既に家は借りてあります。小さい家ですがある程度の勉強トレが可能な庭もあるようです。今回私が同行したのは家の確認という目的もあります」


 何と言う……。しかし俺としてはありがたい措置なのかもしれない。街の外で魔物や魔獣と戦う事も認めて貰える。

 ただリサと2人というのが……


 先程のフルヌードが頭をかすめる。6歳の癖にそんな事を意識するのはおかしいと思わないで欲しい。記憶が混じったせいかこの辺の感覚が6歳児とは大分違うのだ。


 なら荷車に倒れていた子供を見てそそると思ったのは何故なのだろう。確かに肉体年齢的には今の俺と同じくらい。だが性的にそそるという感想はおかしいだろう。まだ二次性徴が来ていない子供なら。

 

 何かおかしい。間違っている。つじつまが合わない。よくわからないがきっと田常呂たどころ浩治こうじのせいだろう。そう思うしか無い。


筋士団きしだんが間もなく到着するようです。この速度だとあと3分程度でしょうか。

 それでは休憩を終了致しましょうか」


 俺の頭がごちゃごちゃになってたままだ。いや、悪い展開ではないのだ。リサがいてくれるという事は。それでも……

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