第2話 ビルダー帝国の現況と俺の最初の冒険

 新たな記憶と思考力を得て3か月。今まで以上に意識を高くして取り組んできた為か、明らかに力がついてきているのがわる。特に腕や太もも等はもう別物状態だ。


 こうなると勉強トレーニングが楽しくてたまらなくなってくる。父も大喜びだ。


 ただ勉強トレーニングは行った後、必ず休みを入れるのが常識だ。これは筋肉に過重負荷オーバーロードをかけて筋力の強化及び発達をさせる以上、守らなければならない。


 ただし1日で全ての筋肉部位の勉強トレーニングをする訳では無い。だから実際には2~3日おきに休みを入れる事になる。


 ちなみにビルダー帝国は1週間は7日で、第3曜日と第7曜日が休息日。だから休息日に勉強トレーニングを休めばちょうどいい。


 ついでに言うと1か月は28日で13月だけは29日。数年に一度1月が29日までになる。

 季節は春が3~5月、夏が6~8月、秋が9~12月、冬が13月~2月。1年は冬至の日にはじまる。


 さて、その休息日で俺は文字の読み書きや勉強トレーニング理論、更にはビル帝国やこの世界アナボリックについての学習をすすめた。

 おかげでこの国の政治体制等についても大分理解できるようになったと思う。


 この国ビルダー帝国を治めているのはマッチョ帝と筋肉貴族。しかし実際に政府を運営したり議会で立法を行っていたりするのは、俗に文幹ぶんかんと呼ばれる連中だ。

 文幹は筋本位制ではなくペーパーテストで選ばれる。そしてペーパーテストの成績と職務上の実績により昇進していく。


 なら文幹こそが国を治めているのではないのか。その答は否だ。何故なら筋肉貴族には文官に対する優先権があるし、この国は根本的には筋本位制だから。


 政策や政治判断は指定された筋肉貴族の決裁を受けなければ成立しない。またそうして成された政策等であっても、筋肉貴族側が疑義を唱える事が可能だ。


 疑義が出た場合の判断は筋本位制に基づいた筋肉裁判で決まる。具体的には疑義を出した側、疑義に反対する側で代表を3名ずつ出し、身体のみを使う戦いを行って決着をつけるのだ。


 もちろん文幹だって義務教育トレは受けている。中には伯爵3名を筋肉裁判で圧倒し法案を通した伝説の文幹、スティーブン・アームレスリング超院議員なんて強者もいた。

 しかし大概は筋肉貴族が勝つ。故に最終的に国を治めているのは筋肉貴族だとされている訳だ。


 何故筋肉貴族はそこまで優遇されているのか。それはビルダー帝国、いやアナボリック世界が絶えず敵の襲撃を受けているからだ。


 悪魔カタボリック堕神エストロゲン使徒メタボリック。こういった存在に対抗する手段は筋肉しかない。

 しかし上級悪魔カタボリックや上位使徒メタボリックを倒す事は一般人の筋肉では不可能。


 これらに対抗できる存在が筋肉貴族という訳である。つまり筋肉という権威を纏ったスーパーヒーローが国を治めている。そういう感覚だ。


 ◇◇◇


 さて、筋肉がついてくるとその成果を試したくなる。もちろんステータス閲覧で数値的にはわかるのだが、それだけでは満足できない。


 俺は6歳ながら筋力を一般の成人とあまり変わらない値まで成長バルクアップさせている。ならば使徒や悪魔は無理でもDランクの魔物や魔獣くらいなら倒せる筈だ。


 そして本日は第3曜日で休息日。だからちょっと遠出をしてみようと思った訳だ。本物の魔物や魔獣で俺自身の力を試す為に。


 さて、ビルダー帝国ではどこの街も周囲は3m以上はある高い街壁で囲われているのが普通だ。もちろん此処ロイシンの街も例外ではない。


 この街壁のおかげでよく出現する程度の使徒や悪魔、魔物は街中へ入ってくる事はない。もちろん上位の使徒メタボリックや上級・中級悪魔カタボリック、そして飛行出来る魔獣は防げないが、そんな敵はそうそう出現しないからまず問題ない。


 つまり街中、街壁の内側では俺が倒せる程度の敵には出会えない。だから戦うには塀の外に出るしかないのだ。

 そして鍛え上げた俺の筋力なら3m以上の塀だろうと飛び越えるのは簡単。


 朝食後、俺はランニングという名目で外出。以前から目をつけていた筋士団きしだんの警備見張所から遠く人も少ない場所へと向かう。


 この付近は住宅街で今は休息日の朝。だから人はほとんどいない。周囲の筋配けはいを確認した後、俺は予定の場所から街壁を飛び越えた。


 着地したの場所は草原地帯。この草原は自然に出来たものではない。敵が出現した際、遠くから視認できるよう草木を刈り込んだ結果だ。


 これらの草は手刀で刈るらしい。街門を警備している筋士団きしだんの平団員でも手刀一発で半径10m位なら刈れるそうだ。本に書いてあった事が事実ならばだけれど。


 本当はこの手刀草刈りも試してみたいところだ。しかしここで見つかってはまずい。街に戻された上で両親から大目玉を食らう。


 だから着地後即、最大速度で森へ駆け込んだ。これでも100mなら5秒程度で走り抜けられる。此処は草原だからもう少し時間はかかるけれど。


 これで見つかる可能性はかなり低くなった。元々この辺は筋士団きしだんの警備見張所から遠い上、警備も1時間に1回巡回する程度だ。事前に調べはつけてある。

 

 森の中まで入ると下草が減って歩きやすくなった。木々の下で陽が差さないから下草も育ちにくいのだろう。この森の木そのものが他の草木が生えにくい成分を出していたりもするらしいし。


 さて魔物や魔獣は何処だ。そう思うがすぐにそれらの敵を見つけられる訳は無い。そこまでうじゃうじゃ敵がいたらビルダー帝国が壊滅してしまう。


 一般的に魔獣や魔物を探す方法はこんな感じだ。

  ① 目で周囲をじっくり見る

  ② 耳を澄まして異質な音を聞き分ける

  ③ 敵の筋肉の動き、すなわち筋配けはいを察知する

  ④ 筋肉挑発ポージングを行って周囲に筋愛きあいを放ち、敵を挑発する


 ①はもっとも簡単だが見える範囲しか使えない。

 ②は鍛えれば①よりずっと遠くまでわかるが、それでも50m位が限度

 そして今回相手にするDランク魔獣の筋配けはいはそこまで大きくないので③は難しい。


 だから今回は④と②を使うつもりだ。

 そのつもりで筋肉挑発ポージングを幾つか学習しておいた。


 今回は基本の筋肉挑発ポージング7つでいこう。俺は両足を軽く開いて立ち、そして脚を外に開くようにして力を入れる。

 それでは筋肉挑発ポージング、開始だ。


 フロントダブルバイセップス!

 フロントラットスプレッド!

 サイドチェスト!

 バックダブルバイセップス!

 バックラットスプレッド!

 サイドトライセップス!

 アブドミナル&サイ!

 

 俺の耳が明らかに森の他の部分と異質な音を捉えた。

 右前方2時の方向、距離は10mといったところか。

 他にも幾つかの敵らしき音が聞こえるが、これが一番近い。

 俺は向き直り、サイドリラックスの姿勢で敵を待ち受ける。


■■■ 蛇足の用語解説 ■■■


○ 筋士団きしだん

  馬に乗らないので騎士ではない。槍や剣、盾などといった武器や防具も持たない。筋肉で戦うさむらい集団。それがアナボリック世界の筋士団きしだんだ。


  服装はマントとトランクスのみ。日焼けは身体に悪いので外出時はマントを羽織る。筋肉は鎧より頑丈なのでそれ以上の装備は必要無い。

 会敵した場合は動きの邪魔になるマントを脱ぎ捨て、パンツ1枚で戦う。筋肉よりパンツの方が強度が弱い為、全力で戦うと往々にして全裸になってしまうのはご愛敬。


  なお筋士団きしだんには女子隊もいるらしい。服装はマントとビキニ。ただ全力で戦うと往々にして……

  という事で筋士団きしだんの女子隊は、普通は男子の筋士団きしだんとは別個の運用をされている。


○ 筋肉挑発ポージング

  ボディビルのポージングとほぼ同じだと思って欲しい。文で書くより検索して写真で見た方がわかりやすいので以下省略。


○ フロントダブルバイセップス

○ フロントラットスプレッド

○ サイドチェスト

○ バックダブルバイセップス

○ バックラットスプレッド

○ サイドトライセップス

○ アブドミナル&サイ

  アナボリック世界では筋肉挑発ポージングの基本の7つ。地球というか日本ではJBBF(日本ボディビル連盟)の大会における規定ポーズ。NBBF(日本ボディビルディング連盟)の大会の場合はこれにモスト・マスキュラーが加わる。

  詳細は文章よりも検索して見た方が早いので省略。


○ スティーブン・アームレスリング超院議員

  コナミのゲーム『METAL GEAR RISING REVENGEANCE』の登場人物『スティーブン・アームストロング』から。

  語ると長くなるので検索がおすすめ。


○ 筋愛きあい筋配けはい

  アナボリック世界における気合い、気配に相当するもの。


○ ロイシン

  ここでは街の名前だが、一般的には必須アミノ酸のひとつの名称。この場合の必須アミノ酸とは、人間が体内で合成できず摂取する事が必要な9種のアミノ酸のこと。

  具体的には、トリプトファン、ロイシン、リシン、イソロイシン、バリン、トレオニン(スレオニン)、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン。

  『トロリーバス不明、ひー!』と覚えればいいとWikipediaに書いてあった。

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