プロローグ2 転生先は筋肉まみれ
ただ貰えるチートがどんなものかわからない。活躍できるチートなのか、ゴミチートなのか。
どうせなら出来るだけ使える、格好良くて強いチートが欲しい。ここは一応確認しておこう。
「どんなチート能力を得られるのでしょうか? 例えば万能の魔法とか」
貰う立場なので、一応丁寧語で聞いてみる。
しかし女神テストステロンは顔をしかめ、こう言い放った。
「魔法などという不合理な力は存在しません」
えっ! どういう事だ!
「魔法等というような不合理な力はアナボリック世界にはありません。人間が持つ最高の力、それは筋肉です!」
聞き違いだろうか。そう思って俺は気付く。勇者の話の中でやたら筋肉鍛錬という単語が出てきた事に。
ひょっとしてこの世界は筋肉重視、つまり脳筋なのでは……
「その通りです。アナボリック世界は科学や魔法などといった偽りの力では無く、筋肉によって発達した世界なのです」
女神テストステロンは俺の思考を肯定した後、更に続ける。
「鍛えられた筋肉は全てを凌駕します。ダイヤモンドよりも硬くなりますし、鋼線よりもしなやかにもなります。
最強の魔獣であるファメースでさえ、鍛えられた筋肉貴族の敵ではありません」
筋肉貴族? 訳がわからない単語というか概念が出てきた。
「筋肉を鍛えれば怪我もしないし病気もしない。ウィルスだろうと病原菌だろうと鍛え抜かれた身体の前には無力です。
コウジ・タドコロが転生する予定の国はアナボリック世界一の大国、ビルダー帝国です。この国は筋本位制を採用しており、鍛え抜かれた筋肉強者が72名の筋肉貴族、そしてその頂点のマッチョ帝となり国を率いています」
何だその筋本位制というのは。金本位制ではないのか。ブレトン・ウッズ体制に謝れ!
一般教養で経済史を学んだ大学生として思わずそう思ってしまう。
そんな俺の思考を一切無視して女神テストステロンは続ける。
「筋肉があれば道具はいりません。例えば農作業、鍛えられた筋肉があれば鍬や鋤といった農具は一切必要なくなります。トラクターよりも早く自在に地を耕すことなど訳もありません。
自動車も必要ありません。鍛えた筋肉があれば自動車より速く大量に物を運ぶなど訳も無いことです。排気ガスだの環境汚染等という問題もおこりません。
そう、筋肉こそ万能なのです」
女神テストステロン、きっぱりそう言い切った。
しかしちょっと待って欲しい。
「つまり筋肉以外は一切発展していない、未開世界なのですか」
「いえ、生化学分野と医学の一部についてはかなり発達しています。電気・通信機器も地球の20世紀半ば程度です。それに生活水準もテレーン世界の先進国と同レベル以上となっています。
たとえば平均寿命は80歳を超えています。貧困も比較的少ないですし、インターネットやテレビ、ラジオ等がない代わりに新聞や雑誌、書籍等が発達しています」
なるほど、世界としては案外進んでいるようだ。
「それに筋肉を使えばテレーン世界のように排気ガスだの環境汚染等という問題もおこりません。
そう、筋肉こそ万能にして最高の文化なのです」
理解しにくい世界だ。気になる事があるので聞いてみる。
「そんな世界では暮らしにくいという人もいるんじゃないですか?」
「貴方がいたテレーン世界のニホンという国では、勉強が苦手な人に対しても最低で義務教育9年、多くは更に高校の3年、そして半数近くは大学4年まで勉強なんて事をしたでしょう。
それと同じです。ビルダー帝国では幼い頃から義務
更に専門
理屈は通っているが理解出来るかどうかは別問題だ。
ただ間違いなくこれは異世界だろう。俺には異常としか思えない世界、という意味で。
だから俺は聞いてみる。
「他に転生できる世界はないのでしょうか?」
「私、
コウジ・タドコロが選べるのは恩恵を受け取ってアナボリック大陸に生まれ変わるか、恩恵無しに違う世界に生まれ変わるかどちらかです。
なお私の力では貴方をテレーン世界へ戻すことは出来ません。ですからコウジ・タドコロが選べるのは私が送還可能な、協力的な神々のいる世界となります。
具体的には地下に広がり信仰心が発達したカールト世界、知性こそが悪だと断じインテリは虐殺する民主的カンプーチア世界等があります」
もっとヤバそうな世界しか無い。どうなっているのだいったい。
ならここはこの筋肉な世界で我慢するしかないのだろうか。
判断するためにチートについて聞いてみよう。
「それではこの世界に転生するなら、どのような恩恵を頂けるのでしょうか?」
「具体的には6歳時にある程度の記憶を思い出す事が出来る他、人の3割以下の時間で超回復が出来、かつ筋疲労が半分で、速筋線維と遅筋線維両方の能力を併せ持つ最強の筋肉を持つ身体を与えましょう。
更には自分や他人の能力を数値化して確認する事が可能な能力もおまけでつけます。ステータスとやらでテレーン世界では一般的に知られている能力のようですから。
また生まれる家も高位の現役筋肉貴族家にしましょう。
特典は以上です。これは勇者に与えるのとほぼ同じ恩恵となります」
転生特典も筋肉まみれだ。なろう系転生で一般的なのはステータス確認能力しかない。
しかしアナボリック世界とやらはとにかく筋肉第一。ならばこれが最高のチートなのかもしれない。今の俺には価値がよくわからないけれど。
「そうは言ってもすぐに決めるのは難しいでしょう。気が済むまでじっくり考えて答を出して下さい。
ふさわしい場所を用意しました。答が出たら私を呼んで下さい」
俺と女神テストステロンしかいない空間が変化した。様々な機器や道具が置かれた部屋だ。
具体的にはストレッチマット、各種ベンチ、ダンベル各種、ショルダープレスやチェストプレス等の油圧マシン、更には各種ウエイトマシンやランニングマシン、バイク等有酸素マシン。
どうやらアナボリック世界とやらにはトレーニング器具を作る事が可能な文明はあるようだ。しかしこの、どう見てもトレーニング施設としか思えない部屋が考えるのにふさわしい部屋なのだろうか。
脳味噌まで筋肉になりそうだと思いながら、それでも俺は考える。
筋肉の世界へ転生するのともっと危険そうな世界に転生するのと、どっちを選ぶかを。
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