エピローグ すべての冒険者に祝福を!

 この日、冒険者ギルドに新たに登録を済ませた、一人の新入り冒険者がいた。

 まだ少年の面影が色濃く残る、年若い青年だった。


 田舎から出てきたばかりというのが丸わかりの格好で、見ている方が緊張してしまうくらい、挙動も落ち着かなげだった。

 ギルドの受付嬢、レベッカは終始笑顔で彼に対応する。


「はい。鑑定が完了しました。マルクさんの初期クラスは回復術士ヒーラーです」

回復術士ヒーラー!?」


 レベッカの言葉を聞いたマルクという名の青年は、あからさまに落胆していた。


「そんな……。俺、モンスターと剣で戦う戦士に憧れて冒険者になったのに、よりによって回復術士ヒーラーだって!? 冗談だろ!?」


 八つ当たり気味にレベッカに詰め寄るが、彼女にとっては慣れっこだった。

 笑顔を少しも崩すことなく、明るい声のまま返す。


回復術士ヒーラーも立派な冒険者クラスですよ。初期クラスで回復術士ヒーラーになる確率は、全冒険者さんの内わずか7%で、どこでも重宝される存在です。それにマルクさんのステータスからみても、非常に向いていると思います」


 いまのマルクにとっては、その笑顔すらどこかうっとうしく感じられた。


「でも……回復術士ヒーラーなんて所詮しょせんサポート役だろ? 便利がられても物語の主人公にはなれないやつだ」

「そんなことありませんよ」


 笑顔のまま、レベッカはきっぱりと否定する。

 思わぬ断定にマルクは首をかしげた。


回復術士ヒーラーとして名を残した冒険者さんもたくさんいらっしゃいます。中にはソロで活躍された伝説の冒険者も……」

「ソロ!? 回復術士ヒーラーなのに? いったいどうやって……?」


 マルクに問われ、レベッカの笑みが「待ってました」とばかりに一段深くなった。


「少々長くなりますがよろしいですか?」


 その笑みには妙な迫力があった。


「……始まったよ」

「レベッカちゃん、冒険者マニアモードになるとマジで長いんだよな……」


 新入りルーキーの様子を遠巻きに見ていた冒険者達がぼそりとささやき合う。

 けれど、その声はカウンターにいる二人には届かなかった。


 レベッカは、古今東西の伝説的な冒険者達について熱く語りはじめた。

 吟遊詩人のうたも顔負けなほどの、雄弁さだ。

 しかし、詩人とは違い、彼女の言葉には一切誇張も虚飾もない。

 ただ、冒険者ギルド受付嬢として培った知識に基づいて話す。

 そして、最後はマルクへの具体的なアドバイスで話を締めくくった。

 その異様な熱気に気圧されながらも、マルクは心に希望が湧いてくるのを感じていた。


「不思議だな。あんたの話を聞いてたら回復術士ヒーラークラスでもがんばれそうな気がしてきたよ」

「はい! その意気です」


 レベッカはガッツポーズ一つ作り、


「あ、申し遅れましたが、わたしは当冒険者ギルドの受付嬢をしています、レベッカと申します! これからあなたのご活躍を全力でサポートしますので、遠慮なくなんでも相談してくださいね!」


 満面の笑顔とともに、元気よく一礼した。

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受付嬢レベッカは落ちこぼれ冒険者を成り上がらせたい 倉名まさ @masa_kurana

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