オーデションとユニット結成と

第13話

 俺と沖宮さんはこれまで駒家さんたちがしてきた侮辱や挑発的な態度を全て水に流すことにした。もう審査得点順の関係で沖宮さんと同じユニットのメンバーになることは決まっている。だからできるだけ仲良くしておいた方がお互いのためだと思ったからだ。


 そんなやり取りをしているとしばらく中断されていた審査もそろそろ再開するようだ。


 先ほどのベージュのロングヘア―で背丈の高い女性が壇上に登る。


 休憩ということでいったん緊張の糸が緩んでいた会場も再び張り詰めた空気で満たされていた。皆の視線が壇上に集まる。


 女性の表情は真剣そのもので射抜くような鋭い眼差しをしている。目を見ただけでその気迫に圧倒されてしまう。これでもかというほど真剣さが伝わってくる。


 曲がかかった。パフォーマンスの始まりだ。リズムに合わせてステップを踏む。たったそれだけの動作で分かった。リズム感がずば抜けている。開始数秒で実力の違いが分かるレベルだ。まるで精密機械のように寸分違わないステップ。だが機械的と言ってもただ無機質に踊っているわけではない。


 ダンスの振り付け一つとってもキレや間を考え、機械的に見えないように緩急をつけている。見る側の気持ちを汲んでいるということか。ただ機械的に踊っているだけでは絶対にできない芸当だ。


 機械並みの精密で繊細なダンスの中に織り交ぜられた彼女の見る側を汲む気持ちそれが彼女のダンスの魅力に繋がっていた。


 この動きどこかで見た覚えがある。だが思い出せないでいた。


 審査が終わる。会場全体がその女性のパフォーマンスに圧倒されているがはっきりと分かった。だって審査が終わったというのに誰一人まだ身動きが取れず終わったのに気づいてないかのようにその女性を凝視しているのだから。


 審査員さえも心ここにあらずという感じだ。だがハッとしたような表情をして我に返ると点数を言い渡した。


 93点。


 ここにきて90点台という大台が出てしまう。まさか沖宮さんを抜く人物が現れるなんて……。会場全体が騒然としている。


 一方、とうの女性本人は何かを探しているかのように会場全体を見渡していた。点数などには興味ないというような面持ちだ。そして何故か俺のところで視線が止まる。何だろう?そう思っていると真剣な表情が緩んで少し微笑み片目を閉じた。


 不覚にも少しドキッとしてしまった。俺を見てウインクしたのか?


 そしてその女性が何故かこちらに近づいてくる。えっ……。何なんだいったい。俺はウインクされて少しグラついたのを悟られないように精一杯無表情にしてみせた。そんなことをしていると女性が目の前まで来る。そして一言。


「久しぶり、ともとも」

「ともとも?」


 大友唯友という俺の名から二つの『友』抜き出して呼ぶあだ名、『ともとも』。昔、呼ばれていた俺のあだ名だ。俺をそう呼ぶ人物は限られてくる。それにこれほどのパフォーマンスをできる人物となればもう一人しかいない……。


「あれ……私のこと忘れちゃった?」

「もしかして……英梨花えりかか?」


 三吉英梨花みよしえりか幼い頃の佳音のライバルだった人物だ。佳音とよく一緒にいた俺は彼女とも何回か遊んだ仲だった。


「覚えててくれたんだ……。良かった……」

「え、何?」

「ううん、何でもないの。それより佳音の付き人はやめたんだ? 別の人といたよね?」

「まあ、色々あって……」

「そっか、でもそれなら順番的に次は私を補佐してくれる番じゃない? 昔も佳音ばかり優先して……」

「そうだったかな……?」

「覚えてないの?」


 英梨花は何故か少し怒っているように見える。


「なにやっているの? 大友君」

「ああ、沖宮さん」

「初めまして。英梨花です。よろしくね。今、ともともが補佐しているのはこのかな?」

「沖宮杏子です……。大友君、知り合いの人?」

「そうだよ、昔からの知り合い」

「幼馴染がいっぱいいて楽しそうでいいね……」


 そういう沖宮さんの顔は何故か浮かない表情をしている。



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