第12話
「けじめとして謝ってくれるかな? 今までした行いをね」
「……」
沖宮さんの提案、それはシンプルなものだった。今までの非礼を詫びる。ただ、それだけだ。
だがたったそれだけのことでさえ駒家さんにとっては重いものだったらしい。ただでさえ審査得点で沖宮さんに敗北して屈辱を味わっている彼女。それに加えて謝罪するというのはプライドが許さないということか。
だが数秒の沈黙の後、投げやりな態度で口を開いた。
「ごめんなさい。はい、これでいいんでしょ?」
「うん、私に対しての謝罪はこれで終わり。次は大友君に謝ってもらえる?」
「な、なんでよ? 絶対嫌よ。だいたいこの男に謝る理由なんてないわ。私が負けたのはあくまでもあんたなんだから」
「私は大友君に支えてもらったからこそ、今ここにいられるの。そんな人をバカにする権利なんてあなたにないはずだよね?」
「っ……」
「謝罪、できるよね? 私、あなたと仲良くしたいな?」
駒家さんが俺の方を向く。「ご……」ずっとこんな感じで言葉が詰まっている。『ごめんなさい』この一言がいつまで経っても出てこない。
先ほどのように投げやりに謝れば良いと思うのだがどうやらそんな簡単なものではないらしい。俺に対して謝罪することはたとえ形式だけのものであってもかなり嫌ってことか。
まあ、それもそのはずか。散々見下し、蔑み、侮ってきた男に頭を下げること。それはプライドの高い彼女にとっては最上級の屈辱に違いない。
だがそんな彼女が微かに口を開いた。非常に悔しそうな表情で。
「……ごめんなさい」
声が小さすぎて聞き取れない。恐らく謝罪の言葉であろうことは推測できる。だが、聞いてもいないのに勝手に人が言ったことを憶測で決めつけるのは誤解の元だ。
それに会話している相手の言葉を聞き取れていないのに話を続けるなど失礼極まりないこと。そう思った俺は彼女になんて言ったのか聞き返す。
「ん? ごめん、聞こえなかった。もう一度、なんて言ったのか教えてくれる?」
「はぁ? あんたの性格、どこまで腐ってるのよ。もう一度言わせて私を辱めるつもり?」
心外だ。そんな意図はなかった。
「ごめんね? そんなつもりはないんだ」
「ごめんなさいっ!! もう許してよ……」
彼女はもう聞き逃されないようにと精一杯声を張った。そして気弱な声で許してと懇願する。俺は別に彼女を責めているわけではない。全て誤解だ。だが彼女は俺のことを性悪の外道だと勘違いしているように見える。
そんなやり取りを駒家さんと続けていると北坂さんが話しかけてきた。そして間髪入れずに謝罪する。
「不遜な態度を取ってしまい申し訳ありません。これからは身の程をわきまえたいと思います」
本当に心からの謝罪なのかどうか怪しいが、自分から謝ってきたんだ。俺と沖宮さんは快く謝罪を受け入れた。
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