第14話
「これから同じユニットのメンバーになるもの同士仲良くしようね。杏子ちゃん?」
「はい……よろしくお願いします」
「ところで、ともともとはどういう関係なの? ただの付き添い? それとももっと深い仲とか?」
「今のところは友人です」
「『今のところ』……か。結構、面白いね杏子ちゃん。でも私は昔から彼のことを知っているから分からないこととかあれば何でも聞いて良いからね?」
二人はにこやかに話しているが何か不穏なものを感じる。
「大友君と仲、良いんですね」
「まあ、昔からの付き合いだからね。結構詳しいかなって思うよ?」
話を聞いていると不穏なものの正体が分かり始めた。にこやかな態度とは裏腹に何か二人とも張り合っているように見えるからだ。何故か英梨花は先ほどから俺のことについて詳しいアピールをしている。沖宮さんのことをライバル視しているのか?
しかし俺の情報について詳しいからって何だって言うんだ。いったい何のマウントだよこれ……。
「そろそろ審査が始まるから二人ともその辺りにしよう」
マウント合戦がヒートアップしてはまずいと思った俺は急いで止める。最後の審査が始まった。壇上にいるのは中学生くらいの子だろうか?もしそうなら最年少か。
どこかあどけない雰囲気の彼女。緊張しているのが伝わってくる。全く見ず知らずで関係のない俺でさえ思わず『頑張れ』そう応援したくなってしまうほど会場の空気に飲まれているのが手に取るように分かった。
しかしそういう要素はアイドルにとっては利点になるのかもしれない。そんな緊張している彼女を見て皆、壇上の彼女に対して見守るような暖かい眼差しを送っている。恐らく俺が思った頑張れという感情と同じもしくは近いものを皆、感じているのだろう。
いつの間にか会場全体を味方につけた彼女の一生懸命なダンスと歌は審査員をも魅了した。
点数は60点。だが、まだまだ伸びる要素がある、そう思わせてくれるようなパフォーマンスだった。
点数順の上位五名でユニットが結成されることになる今回のオーディション。
結果は
1位:三吉英梨花
2位:沖宮杏子
3位:駒家メグ
4位:北坂未祐
5位:御内璃子
オーディションを終えて、多くの人が帰宅の準備をする中、上位五名は残されることとなった。恐らくこれから結成されるユニットについての説明か何かがあるのだろう。
ふと会場の出口の方を見ると亜麻色のロングヘア―の女性が立っているのが見える。マスクとサングラスをしていて顔は良く見えないが、俺はその姿に見覚えがあった。あれは佳音だ。変装をしてはいるが長年マネージャーを務めてきた俺には彼女が佳音だとすぐに気づくことができた。
近づくなと言われていたので声をかけていいものか戸惑ったがここに彼女がいる理由が気になった俺は足早に彼女に近づき何も考えず声をかけてしまう。
「佳音、こんなところで何をしているんだ?」
「……事務所の後輩がこのオーディションに参加しているの。私はそれを見に来ただけよ」
「そうか」
意外にも彼女は普通に応答してくれた。露骨に無視されたりするのではないかとちょっとびくびくしていたが杞憂だったようだ。
「それは駒家さんのことだろう? 彼女なら無事にメンバー入りを果たしたよ」
「私も見ていたわ。まあ及第点ってところだったけれど最低限の結果は残してくれたわね」
相変わらず辛辣な感想だが後輩の様子を気にかけるなんて意外と面倒見がいい所もあるんだ……。俺は彼女が誰かを気にしている所など見たことがなかったので少し驚いた。
「私はもう行くわ。それじゃあね」
「ああ」
佳音と別れを告げた後、何故か英梨花が駆け足で会場を出ていく佳音の後を追っていくのが見えた。佳音と英梨花は昔から何かとライバル関係だったので二人で話したいことでもあるのだろう、俺はそう思ってあまり深く考えずに英梨花を見送った。
◇
「ちょっと待って!」
「……英梨花、何故ここに?」
「佳音の姿が会場で見えたから急いで外まで追ってきたのよ。あなたはどうして会場にいたの?」
「私の事務所の後輩が気がかりだったからよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「何、その顔は?」
「いや、別に? 私はただ、ともとものことが気になったのかな?って思っただけよ」
「まさか……この私があの程度の男のことなんて気にするはずがないわ。あなたは違うみたいだけどね。まだあんな男に執着しているの?」
「執着しているのはいったいどっちなんだろうね?」
「どういう意味?」
「だってそうじゃない? 自分からマネージャーを外しておいてずっとともともの動向を気にかけているんだもの。執着しているのは貴方の方でしょ。佳音?」
「話にならないわね。私はもう行くわ」
「あらら……行っちゃった……。相変わらず自分の気持ちに鈍感なんだから」
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