「あんたみたいな底辺が来る場所じゃないのよ」←この娘、わからせます
第6話
「ここはあんたみたいな底辺が来る場所じゃないのよ。少しは身の程をわきまえたら?」
「……」
「ここまで言われてるのに何も言い返せないの? 情けない男。あんたと一緒にいるそこの清廉気取ってる黒髪の女ともどもあんたたちの夢、私が打ち砕いてあげるわ」
いきなりドキツイ言葉を投げかけてくる目の前の女。俺を見下して嘲笑している。
何故俺がこんなことになっているのかというと……
◇
「大友君、やったよ!」
「どうしたの沖宮さん」
「今朝、郵便受けを見てみたら通知が届いてたの。アイドルの書類選考通ったみたい!」
「沖宮さんの熱意が伝わったのかもね! やったね」
書類選考を通って喜ぶ彼女。書類には本人の証明写真の提出が求められていた。沖宮さんのこのビジュアルなら合格は当然か。問題はこれからだ。
今回のオーディション、合格すれば即刻ユニットに加入できるというものだった。そのため他の事務所に所属しているが活躍の場を与えられていない者も参加しているようだ。それもあって通常の素人が多いオーディションよりもレベルの高いものになることが予想された。
オーディションの前に説明会があるということで俺と沖宮さんは主催の事務所が用意している会場へと向かった。
これからライバルになるであろう人たちとの顔合わせをする。やはりアイドルを志望するだけあってルックスのレベルが高い。
だがその中でも沖宮さんは別格の美しさに思えた。もちろん贔屓などではなく客観的に見た結果だ。
ここに集っている大抵の女性は髪色を明るくしたりメイクを工夫したりといった装飾された美しさだった。それももちろん努力の成果であって批判するつもりはないが沖宮さんのナチュラルな美しさは希少だ。ありのままの素材で対抗出来得る稀有な存在だった。
アイドル候補者の一人が俺を見るなり隣の人に何やら耳打ちをし始めた。
「あの人……佳音先輩に捨てられた人じゃん……」
そんな風に言っているのが聞こえる。俺を知っているのか?
髪の毛先がウェーブがかっており髪色も明るく垢抜けた印象を受ける。洗練された美しさという感じだ。
「一緒にいる女、黒髪ロングって……。いかにも男に媚びてますって感じ。あんな女、私の敵ではないわ」
思い返してみると俺は彼女をどこかで見た記憶があった。確か佳音と同じ事務所に所属しており佳音を猛烈に慕っていた娘だ。名前は
彼女は相当な自信を持っているらしい。表情を見ても不敵な笑みを浮かべておりまるでこの中で自分を上回る人間など存在しないかのようなふるまいだ。確かにその自信に見合うだけのルックスを兼ね備えている。
それに彼女は佳音の所属している事務所の期待の若手だったはず。なぜオーディションを受けているのか分からないレベルだった。だがダンスや歌の実力も申し分ないらしいがあの性格だ。確実に扱いづらい。だから活躍の場を与えられなかったのか。
「私、ちょっと説明会が始まる前にメイク直ししてくるね」
「分かった。まだ始まるまで時間があるから焦らずゆっくりでいいからね」
「また私を子ども扱いして……」
沖宮さんがムッと頬を膨らませている。少し抜けている所があるから心配になってついつい余計なことを言ってしまうんだよな……。沖宮さんは少し冗談めかしてふてくされながらその場を後にした。
俺たちがさっきからいろいろと言われていることに沖宮さんは気づいていない様子だった。まあその方がいいだろう。今は余計な心配をさせないほうがいい。
沖宮さんがその場を後にすると隣の人に耳打ちしていた駒家さんが俺に近づいてくる。
そして先ほどの場面へと戻った。
◇
「あんたたちの夢、私が打ち砕いてあげるわ」
色々言われた後、俺は駒家さんにそう宣言された。面と向かってこんなことを言ってくるなんて随分と気が強いな……。
「……」
「何なのよこの間は。反論する言葉でも考えてるの?」
俺は別のことを考えていた。
沖宮さんの実力を試すにはちょうど良い相手かもしれない。佳音は無理でもこの娘なら……。
人気アイドルの佳音を間近で見てきた俺だ。レベルの高いアイドルをずっと支えてきたそんな俺が沖宮さんに佳音の時以上の胸の高鳴りを感じている。こんなところで負けるはずがないと確信していた。
「黙っちゃった。もしかして悔しすぎて言葉も出ないとか? 笑える」
そんなことを言われているのに俺は落ち着いていた。不思議と怒りが全く沸いてこない。
それよりもこれから沖宮さんの実力を見せつけるのが楽しみで仕方なかった。沖宮さんの才能を目の当たりにしたら彼女はどういう顔をするんだろう?
「何なのよその顔は(こんだけ罵倒されているのに笑ってる……。私をバカにしてるの?)」
俺は近い未来に起こるであろう出来事に思わず顔をほころばせてしまう。
「ふざけないで、私を侮辱したこと後悔させてやるわ」
そうこうしているうちに沖宮さんが戻ってきた。
「あれ大友君、知り合いの人? 凄い綺麗な人だね……」
沖宮さんが俺にそう問いかける。若干表情が曇っているように見えた。
「知り合いというか、ただの佳音の事務所の後輩だよ。喋ったのも今が初めて」
「そうなの? 良かった……」
沖宮さんは安堵したような表情になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます