第9話
航太とふたりで家に着く。
誰もいない部屋に向かって口を開く。
「ただいまー」
「うううあー」
航太もただいまを言う。
ふたりで見合わせ微笑み合う。
「航太、晩ごはんにはまだ早いから、何をして遊ぶ?」
航太は部屋の隅に置いてあったチラシを指差す。
「お絵描き?」
そう聞きながら宮島はチラシと色鉛筆を航太に手渡す。
チラシの裏に絵を描いてそれを宮島に見せる。
そこには1枚のカルタの絵と手の絵が描いてあった。
「カルタ?カルタは無いよ。今度買っておくよ」
宮島の言葉に航太は首を振る。
そして描いた絵の横に字を書いた。
つくる。
「そうか、カルタを作りたいのか…なら、じいちゃん、今度用意するから一緒に作ろう」
航太は嬉しそうに何度も頷き、違うチラシの裏に絵を描き始めた。
その絵は航太を真ん中に、宮島と美紀を両脇に描いて、コーヒーカップや船の絵が描いてあった。
「遊園地?」
航太は頷く。
横から見ていた宮島は、描いている途中で航太に訊いた。
「いいなぁ〜航太と行きたいな…航太とママと3人で行こうか?」
航太は嬉しそうに何度も何度も頷く。
「約束だよ、一緒に行こうね」
宮島は小指を差し出すと小さな小指を航太は絡めた。
壁に航太の描いた絵をまた張って、晩ごはんにする。
「航太、手を洗ってきなさい」
宮島はテーブルを拭いて、お弁当を置いた。
向かい合わせに座って箸を取る。
蓋を開く。
「あーあー!」
航太が歓声を上げる。
宮島が箸を着けようとすると、航太が手の平で止める。
「うううあーう…」
「あっ!ゴメンゴメン戴きます言わなきゃね」
「うううあーう」
「いただきまーす」
ひと口卵焼きを食べる。
「うまい!」
航太が得意そうな顔をする。
ご飯を食べて、肉を食べる。
「うまい!ママはお料理上手だね」
航太は嬉しそうに頷く。
宮島はかなりのボリュームの弁当をペロリと完食した。
航太も残さす全部食べた。
航太にミルクを飲ませ、宮島は缶コーヒーを飲んだ…。
「あぁー食った食った…」
宮島は自分の腹を叩きそう言うと、航太も真似をし自分の腹をポンポンと叩き、ふたりで笑った。
風呂を溜め、航太と一緒に入って身体を洗ってあげる。
最初に航太に出会った頃より、ずっと成長した。
風呂から上がり、湯冷めしないよう身体を拭くと裸のまま、航太は笑いながら逃げまわる。
「航太、待て待てー」
捕まえて、風邪を引いちゃうと美紀の用意した下着とパジャマを着せた。
敷いた布団へ航太を寝かせ、テレビのアニメを観させていると、美紀がインターフォンを鳴らし、入って来た。
「有り難う、お世話してもらって…。航太、いい子でしたか?」
「お世話だなんて…航太はいつも良い子だよ。ご飯も残さず全部食べたし」
美紀は微笑み聞いている。
「って言うか、美紀ちゃん、相変わらず料理うまいね…私も全部食べちゃった」
「良かった…有り難う」
「まだ航太、テレビ観てるから、ちょっと座らない?何か飲む?」
宮島はビールとグラスを持ってきた。
「あたし、弱いから…」
「家はすぐそこだし、たまには飲みなよ。もう、今日は用事無いでしょ?」
宮島は買い貯めしていたお菓子を出してビールを美紀と自分のグラスに注いだ。
「お腹空いてるよね?こんなのしかないけどちょっとつまんで」
ポテトチップスとミックスナッツに甘いパウダーの付いたおせんべいの袋を開いて美紀に勧めた。
そして、今日の航太の事を美紀にビールを飲みながら話した。
見渡す壁には、航太の描いた絵がいっぱい。
「航太が描いてくれたんだよ。私の宝ものだよ…」
アニメも終わり、航太があくびをする。
「航太、じいちゃんにお礼を言って帰りましょ」
航太は激しく首を振る。
「航太、泊まっていくか?」
宮島は嬉しそうに航太に訊く。
航太は何か考えている…。
「航太、迷惑だよ、帰ろ?」
すると、航太は起き上がり、美紀と自分と宮島を指差し、次に床を指差すと眠る仕草をした…。
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