第4話

航太の母親は佐山美紀(さやまみき)、

結婚し航太を産んだ後、すぐに夫を事故で無くし、親戚縁者のいなかった美紀は航太を独りで育てている。


航太は6歳、今は小学校の1年生…。


3月の早生まれの為、同じ1年生よりは、幼く身体もひと回り小さかった。


美紀と航太は、亡夫の保険とパートタイマーの仕事で母子で何とか暮していた。


「航太に寂しい思いをさせたくないけど働かなきゃ…航太はあれだから、友達も出来なくて…」

 

「なら私に航太くんをみさせてくれませんか?」


「そんな、迷惑かけられませんよ」


「いや、やること無くて、退屈なんですよ…航太くんの面倒をみるのは、私の為なんです…この公園であなたが迎えに来るまで航太くんと過ごしたいんです」



それから、毎日、公園で航太と一緒に遊び、美紀が迎えに来ると、ベンチで美紀とも話すようになった。


すっかり航太も美紀も宮島を信用して、雨振りの日は、宮島の部屋で航太を遊ばせ、美紀が、宮島の部屋まで迎えに来ると言う事もしばしばあった。


宮島の部屋の壁には、航太が描いてくれた航太の絵がたくさん貼られていて、航太の帰った後も、宮島は寂しく無くなった。


独り暮らしの為に、早目に仕事を終えた美紀は、宮島の食事を作ってくれ、断る美紀を説き伏せて、3人で宮島の部屋で食事をした時など宮島は幸福感に満ち満ちるようだった。


「いいなぁ…親娘と孫みたいで良かったなぁ」



そんな折、いつもの様に公園に航太に会いに行くと、航太の姿が見当たらない。


航太を探して公園中を歩き回ると、茂みの影から、子供達の声がする。


「こいつ、ぶっても声が出せないから大丈夫なんだぜ」


小学生が2人で航太を小突いていた。


「うぅー…あー…」


航太は呻いていた。 


「こうた!」


宮島は驚き、航太を抱き上げて、小突いていたひとりの子供の首根っこを抑える。


「お前達、なんで航太をいじめた!」


航太は宮島に抱かれ、安心したのか堪えていた涙を流した。


「喧嘩したいのか?」


宮島は怒鳴る。


「だって喋れないんだもん」  


「だからってぶっていいのか?」


「一緒に遊びたいのに、航太、遊ばないんだ」


宮島は抑えた手を離した。


「じゃあ、航太に謝って友達になりなさい」


「航太ごめんなさい、今度一緒に遊ぼうね」


航太を小突いた2人は航太に謝った。


航太は何度も頷き、胸の前で手を合わせ、その子達に謝った。


「よし!これで君たちは友達だよ、じいちゃん見ててやるから、一緒に遊びな」


航太と2人は、それからは3人で公園を走り回り楽しそうに歓声をあげて遊んでいた。


美紀が迎えに来ると、


「航太、バイバイまた遊ぼうね」


と、言って友達は帰って行った。


ベンチに美紀と並んで座り、宮島は今日の経緯を美紀に話し、航太は友達が出来たと告げた。


美紀は涙を滲ませ嬉しそうに宮島の話を聞いていた。


「航太、良かったね。じゃあおじちゃんにバイバイしようか?」


「おじちゃんでは無く、おじいちゃんですよ…航太くん、バイバイ」


すると、航太が宮島に近づき、袖を引いて

自分の胸を指差す。


「うーうーあ…」


自分を指差し航太は言う。


「あーあーうー」


宮島を指差し航太は言う。


「そうか、航太くんじゃなくて航太って呼んで、航太はじいちゃんをじいちゃんって呼んでくれるんだね?」


航太は嬉しそうに何度も頷く。


宮島は嬉しくて航太を抱き締めた。


抱き締めながら、航太に気付かれぬように片手で涙を拭った…。


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