第3話


翌日も宮島は午後になると公園に行った、


航太は地面に小さな木の枝で、絵を描いていた。


「航太くん」


航太は振り向き、宮島に微笑む。


「今日はお絵描き?」


航太は頷く。


絵はおそらく、母親だろう。


母親を描き終えると、航太は枝を宮島に渡し、地面を指差す。


「じいちゃんも描くの?」


航太は頷く。


宮島は母親の絵の脇に大きな木を描いた。


航太は少し目を大きく見開いて、驚いた仕草をし、宮島に微笑み掛ける。


枝を航太に渡すと、航太は母親の横に子供を描いた。


「これは航太くんかな?」


航太は笑顔で頷き、そのまた横に男を描いた。


「これはじいちゃん?」


宮島は自分を指差し、航太に訊ねた。


航太はブンブンと首を縦に振り3人を枝で指し示す。



「嬉しいなぁ、じいちゃんも描いてくれたのかぁ。じゃあ、お礼をしなきゃね」


宮島はそう言い、ポケットから缶ジュースを2本、オレンジとりんごのジュースを取り出した。


「どっちがいい?」


航太はりんごのジュースを指差す。


宮島はプルトップを開けて航太に渡し、自分はオレンジジュースを開けて、ベンチに並んでふたりで飲んだ。


ジュースを飲みながら、宮島は航太に話す。


「昨日、チョコと飴、ママに叱られた?」


航太は首を横に振る。


「そうか…なら良かった」


航太は無口である。


昨日はそう思っていた。


しかし、今日も航太はひと言も喋らない。


喋らないが航太の気持ちは伝わってくる。


宮島は航太を本当の孫の様に愛しく思い始めた。


暫くすると航太の母親が迎えに来た。


宮島は挨拶をする。


母親も笑顔で会釈する。


航太はまだ帰りたくない感じで母親にベンチを指差し、また地面にしゃがみ、絵を描き始める。


母親と宮島はベンチに腰掛け、宮島は母親に話し掛ける。


「私は昨日も話しましたけど、そこのアパート、ハイツ宮島の1階に住んでる宮島と言う者です」


宮島は自分が怪しい者では無いと母親に話す。


定年退職後に暇を持て余し、何か趣味を探していた所、航太と会って一緒にいた時間が楽しかったと説明した。


聞けば、航太の住まいは宮島の2軒先のアパートで、宮島のアパートは良く知っていた。


「ハイツ宮島の宮島さんって…」


「はい、私がオーナーです」


航太の母親は宮島が変質者では無く、子供好きな老人だったと納得してくれたみたいだ。


「あの…失礼ですが航太くんは…」


「はい、表出性言語障害です…」


「それは?」


「耳は聞こえ、話も理解出来ます。ただ、喋ることが出来ないんです…」


母親は少し悲しげに答えた。


「そうだったのですね…でも、航太くんの表情や仕草で気持ちは伝わってきますよ…まるで本当の孫の様に…あっ!失礼しました」


「いやー、良いんですよ。航太も喜んでますよ。昨日は帰って、絵を描いて、宮島さんの絵を描いて指差し楽しそうでしたよ」


航太の母親も、微笑んでいる。

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