㊱ 大好きな風

物語に風は欠かせない。大好きな風。未来へと過去へと時空を運ぶ未知なる風。

それが…悲しいかな、私の周りには最近ひとつも吹いてこない。

ダメージが大きいと自由気ままな心の中の風さえ動きを止めてしまうんだろうか。

もはや、新しい風は生まれない…

目を閉じれば何処からか優しい風が、

頬を撫でて、音のような匂いのような甘いうねりを作って吹いてくれるだろうか。

それが、一番好きな時間だった。

現実、欲しいものが何ひとつないからね。行きたいところもない。

せめて神が与えた想像の翼。

大袈裟だけどそう思って全てをやり過ごして生きてきた。

入院の多い暮らしの中でノートとペンだけは必ず病院に持参して…

突然入院となった網膜剥離の時も、来てくれた娘にノートとペンを買って来てとお願いして…無いと困る。筆記用具だけは。

とすると…私の風はノートとペンか…文字を書く事をしないと…忘れる…

此処のところ浮かばないから書いてないメルヘン。

メルヘンを書く事を忘れるなんて重症だね。

自分を見失っている。

だって、ここ一番、盛り上がりが必要な時、縦横無尽に吹き抜ける風が必要だったじゃない。

場面を浮かべると何処からか七色の風が吹いてくる。

行方定めぬ愚者ののん気でウキウキした横顔に吹き抜ける爽やかな風。

大海を漂う小さな小舟に此処ぞとばかり吹き荒れる恐ろしい風。

風の動きは小さいのも大きいのも額に当たって感知する。

何より壮大でエネルギッシュな風は髪をかき乱し支離滅裂に吹き荒れる。

小雨の朝から豪雨の夜まで風に左右される天候は数多あり。

何でもできる気になるし、そういう特権を与えたくなる。

場面転換や心情描写に使おうとすると、風邪は呼吸を忘れたように動きを止める。

風を求めて窓を開ける。

今日は雨も激しく降っている。

風が雨に力を与えてあちこち当たる音が、波のように引いては返して吹いている。

そんなエポックを鉛筆で書こう。

浮かぶ片っ端から…忘れてしまわないように…


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