⑲ 父が肺癌で60歳で死ぬ

父は還暦を迎える年の一月に亡くなった。退職まであと5ヶ月。在職中だった。癌との闘病8ヶ月。最後は年相応に生きたかの様な白髪の年老いた姿だった。

そうなると、自分の寿命もその程度だと思ってしまう。二人姉妹の姉も少なからずそう感じていたらしく、60を超えて”おめでとう”を言うと、ああ、60まで生きれたね。としみじみ言った。

私もその日が来るのが奇跡のように感じた。死を予感する。その感覚は生きるものにとってかなり影響がある気がした。

ひとまず60まで生きてみよう。その先はそれからしか考えられない。生きる限界、それが60だった。

なのに、案外ひょいと超えてしまった60歳。

私はこの歳からバイオリンを習い始めた。60の手習い。昔から音楽がやりたかった。楽器が弾けたら豊かな老後が送れるような、ゆとりあるイメージ。それだけではないが音楽は出来たら良いなと漠然と描いた未来…

この歳から同い年の夫も第二の人生…代わり映えしない出向先への継続勤務で一度退職した後同じ仕事が始まった。相変わらず忙しい。何時になったら私たちに老後が〜と駄々をこねながら今に至る。

退職したら一緒に珈琲店をやりたかった。やりたかった…諦めたわけではないが流石にこの歳になるともう色々描くのが面倒くさくなってきて現状維持でもいいかなと、やっぱり、諦めてるんだな〜

年相応に執筆活動。あれこれ人生の教訓を垂れたり、躓いた原因を探したり、まだやり足りないことがあると足掻いたり、私の人生は後悔と懺悔ばかりだ…

昨日から家を片付け始めた。終活に近い。持ちすぎた色んなものを少しでも減らして贅肉を削ぎ落とし可愛い優しいじいちゃんばあちゃんになろうと努力している。あと、残す者に負担のかからない生き方…

60で死んだ父はさっぱりと老後の介護もなく、残すもの残してあっさりと幕を引いた。実はあれは私も理想にしている。

なるべく迷惑をかけず少しだけ残すもの残して綺麗に去りたいものだと…

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