② 魔法使い

一人でいるのが好きだから家に引きこもる。要はキャパが頗る小さい。頭の中が緩く回っている状態が最適。思いっきり動かすと途端にショートを起こす。

脳の異常反応は命取りだと思う、なにがあってもフル回転させてはいけない…


家は大切な甲羅だから気持ちよく居られる処にしたくて、ここに越してきてから少しずつ手を入れた。

初めに作った食器棚。引越しして最初に決めた、大事な家訓。家の中に家具を置かない。を貫くために、台所の出窓に食器の高さに合わせて棚を作った。

「こんなの作って欲しい」と言うと「じゃ絵に描いて」と言った後、ちゃんと希望通りのものを作ってくれる。

サイズも質感もぴったりで気に入っている。皿の隙間から光も入る。

50を過ぎて手に入ることになった二軒目の家。

6畳が上下で6つ。総二階。建坪28の小さな家だから市販の家具を置くと奥行きが出っ張って家が狭くなる。だからすべて手作りの薄い使い勝手の良い家具を作って欲しいとお願いした。

その家具が狭さを感じさせないように絶妙に配置されている。

私の魔法使いは私との意思の疎通が絶妙に上手い。バツグンに気持に添える製作技術を持っている。なので、彼だけは私の領域に居ても大丈夫。

魔法使いだから必要な時現れてそれ以外は居ないみたいに静か、実は動く時以外はすやすやと昼寝をしている。もはや次元の違う処にいて呼ぶと出て来る。ランプの精みたい。


とにかく仕事が忙しくて私の近くにいない時の方が多い。

だから大丈夫なのか、長い事一緒にいる。もう、44年。

魔法使いはそろそろ定年で暇になる?

そしたら、もう少し私の近くに現れる頻度が増すかも知れない。でもきっと私が必要としないときは音も立てずに寝てしまうんだろうな…


旅行も結構頻繁に、積極的に提案してくれる。

私はのんきに行くだけならそれも良いかと便乗する。

魔法使いは万事適当に配慮してくれるから快適で居られるのかもと思う。行く先々で居なくなる。

写真撮りに行ったり、買い物に行ったり。

私の近くから適度に居なくなって、おしゃべりもしないで作業をしているから、静かに私は解放されてのんきにしている。

だから、この魔法使いとだけは生きて行けるのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る