探偵 角田剛夢の事件簿 ⑤
かがわ けん
俺はいま鎌倉にいる。
勿論観光ではない。一連の事件の捜査協力だ。
あの夜の出来事を飯塚と共に彼の上司に説明した。
通常なら警察がオカルトじみた話を相手になどしない。だが仲間の失踪と体の中心から引き裂かれたような豊本の遺体を目の当たりにした飯塚は、俺の話を信用し上司を説得してくれた。
そして一連の事件に頭を抱えていた上司から一人の住職を紹介されたのだ。
その住職は陰陽師の家系でオカルト関連の知識に明るいらしい。公にされていないが、人智を超えた事件は数年に一度くらいあるそうで、過去にも意見を求めた人物であった。
「こんにちは。ご連絡した探偵の
庭の掃除をしている人物に声を掛ける。作務衣姿から覗いている二の腕は棍棒の様に太い。禅寺では肉体も鍛えると耳にしたことはあるが、尋常ではない筋肉だった。
「はい。私が島田です」
俺の頭に疑問符が浮かぶ。話では島田住職は六十を超えているはず。だが作務衣の上からでも鍛え抜かれた筋肉が伺い知れる。長渕剛張りの肉体だ。
部屋に通された俺は一連の事件を最初から説明した。島田住職は目を閉じて静かに話を聞いていたが、一通り聞き終えると目を開き鋭い眼光を向けた。
「欲ですな。その悪魔は物理的には現世に干渉できない様子。そこで人間の欲を増幅させた上で、自身の魔力を与え暴走させているのでしょう」
「欲ですか」
「貴殿は七つの大罪を知っておられるかな?」
確かそんな映画を見た記憶があるが……。
「キリスト教の考えですよね」
「その通り。事件を順に追うと最初が憤怒、二つ目が傲慢、三つ目が色欲ですな」
「ならばまだ四つも事件が続くのですか?」
「いや、別にあの映画の様に七つの大罪に
住職もあの映画を口にした。七つの大罪を説明するには定番なのか。
「それであの化け物に対抗する手段はあるのでしょうか?」
「正直難しいでしょうな。ただ貴殿には既に因縁がある様子。もし再度対峙するようならこれを使いなさい」
島田住職は掌ほどの大きさの金属製の道具を懐から出した。
「これは?」
「
独鈷杵か。両端が刀のような形をしているが何か意味があるのだろうか? 本来オカルト的なものに全く興味がない俺だが今回は訳が違う。有難く頂くことにした。
「ありがとうございました。ご協力感謝します」
「いえいえ。良い挨拶でしたからな。礼を欠く者なら無視したでしょう」
島田住職は意味深な笑みを浮かべた。
探偵 角田剛夢の事件簿 ⑤ かがわ けん @kagawaken0804
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