第5話 黒狼病
8月30日 - 尾瀬国立公園が誕生(29番目の国立公園)。
静岡県三島市に住む人気ミステリー作家、別所ペリカンが新作『黒狼病』のプロモーションのために黒狼市を訪れた頃、『黒狼病』を万引きした若い女性、
黒狼署刑事課の佐伯貴恵刑事の訪問を受けた別所は、殺害現場に『黒狼病』の本が散乱していたこと、殺害の手口が小説と同じことを聞かされ困惑するが、そこへすぐ近くにいると思われる犯人から電話が鳴る。内容はさらなる殺人予告であった。
予告どおりに、別所と10年来の付き合いで彼にインタビューしたドSの文芸記者の
『小説家を辞めないと新たな犠牲者が出る』
貴恵は事件関係者を頭の中で整理していた。
別所は演歌歌手の氷川きよし、奥嶋香美は女優の深田恭子、十亀が俳優の細川茂樹、則子が女優の辺見えみりにそれぞれ似ていた。
別所は小学生のときに読んだ、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』に影響を受けてミステリー作家になった。十亀と則子は8月14日に長野県安曇野市に旅行に出かけている。上高地や明神池に行った。ホテルのロビーでピアノの自動演奏を聴いた。曲はドビュッシーの『月の光』だ。
9月5日
貴恵は久々に故郷の松崎町に戻って来た。午後1時くらいに実家に着いた。車庫に野良犬がいた。貴恵に懐いている。水を飲む姿が可愛い。ミンミンゼミが鳴いている。母親がかき氷を作ってくれた。いちごシロップをかけて食べた。キーン!と、頭にきた。
松崎町は、静岡県賀茂郡にある町。伊豆半島南西部の海岸沿いに位置する。町のキャッチフレーズは『花とロマンの里』。町の64%は山林であるが、町中心部に流れる那賀川・岩科川により、流域に約500haの耕地をもつ伊豆半島西側最大の平野となっている。
町内には史跡も多く、なまこ壁造りの建物が特に印象的である。また、温泉もあり、中心部の松崎温泉、東部の大沢温泉、南西部三浦温泉(岩地温泉・石部温泉・雲見温泉)等、夏の海水浴などを含め、多くの観光客が訪れる。
桜餅に使われる桜葉漬けは、全国の約7割が松崎町で生産されている。
翌日には黒狼に戻った。7月 - 9月 のドラマ『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』(フジテレビ系火9)を録画してあったので、夜に観た。
その後、別所は出版エージェント、
別所は本田が
9月11日晩、別所が滞在するビジネスホテルの管理人の息子、豪太が狂犬に追われた末に連続殺人犯の自宅へ迷い込み、犯行の証拠を持ち帰ろうとしたものの、帰宅した犯人と鉢合わせし、チェーンソーで惨殺されてしまう。
9月12日 - 安倍晋三首相(自民党総裁)が突然の辞任表明。「テロ特措法の延長困難」などを辞任理由に挙げたが、健康上の問題があることも与謝野馨内閣官房長官が明かす。
別所は大学時代の文芸サークル仲間の
増上寺は1月17日 に発売された『Rolling star』(YUI)や、2月21日 に発売された『Love so sweet』(嵐)を歌った。堂上は3月21日 に発売された『蕾』(コブクロ)、5月16日 に発売された 『愛唄』(GReeeeN)などを歌った。
別所は6月6日に発売された『睡蓮花』(湘南乃風)を歌い、精密採点で90点をGETした。
「おまえ、歌手目指せよ」と増上寺にちやほやされて別所は満面の笑み。
「『黒狼病』読んだぞ? 罹患した人間が殺人鬼になるなんて怖いな〜?」
堂上が昼を食べるためにメニューを開いた。
「ピザにしよっかな?」
「黒狼でリアルな殺人が起きたよな? 犯人はおまえ、別所だよ。俺は本当は明智小五郎の末裔なんだ」
唐突に増上寺が言ったので2人とも驚いてる。
「マジかよー?」
堂上が啞然としている。
「ジョークに決まってるだろ」
増上寺のブラックなギャグに別所たちはハラハラした。
9月13日 - JAXAがセレーネ計画の月探査衛星をH-IIAロケットで種子島宇宙センターから打ち上げ。
別所は午後2時半に埼玉県久喜駅で美幸と落ち合った。彼女は7月末まで新宿にある『ガリレオ出版』で働いていた。彼女はリストラされてしまって落ち込んでいた。励ますのもなかなか大変だ。美幸は久喜にある高校に通っていた。今日はクラス会があったらしい。
「みんな結婚して幸せそうだった」
助手席で缶コーヒーを飲みながら美幸が言った。
「なあ? このまえ赤坂にいなかったか?」
「赤坂って東京の?」
「うん」
「行ってないけど」
「じゃあ人違いだったのかな?」
つくば山を目指して夕闇の街を走った。生憎の雨模様だが、晴れとは違う雰囲気でいい。街の夜景が綺麗だ。スキーの話やドラマの話をしながらドライブをした。
「いつか、雪を見ながら露天風呂に入りたいな」と、美幸。
9月14日 - 日本の月探査衛星「かぐや」、打ち上げに成功。
夜、私立探偵の永倉一は黒狼駅近くにあるフィリピンパブにやって来た。彼の蒲生探しはまだ続いていた。蒲生はパブ、『マタミス』の常連客だった。マタミスはフィリピンの言葉で、甘いという意味だ。
1970年代に、日本の海外旅行ブームが訪れると、フィリピンは日本に近い事もあって、アメリカ合衆国のオアフ島やグアム島の次に入る程の人気のある観光地となっていた。特にマニラ市は、歓楽街が充実しており、多くの日本人男性を魅了していた。ところが1985年あたりから、フェルディナンド・マルコス政権のクーデターをきっかけに『危険な国』として、一斉に旅行ツアーが廃止となり、日本人客の足は遠いていった。
日本には、1960年代から数多くのフィリピンバンドが日本に出稼ぎに来ていた。その多くは、ディスコやクラブでの演奏が主体であり、その流れからフィリピン人の入国は興行査証が占めていた。1980年代頃から、キャバレーにフィリピン人のエンターテイナーを『ホステス』として起用する興行師が出てくる。始めの頃は、若いフィリピン人女性は普通のキャバレーにヘルパーとして使われ始めていた。
しかし、バブル景気を迎える頃、マニラ市の繁華街から日本人を始めとする外国人観光客が激減したことで、大勢のフィリピン人ホステスが多数来日することになる。そして、外国人パブやフィリピン人だけ集めたパブが登場し、人気を集める事となる。特に若い女の子が集まらない地方においては、フィリピンパブは人気があり日本各地に増えていった。
最盛期の2004年(平成16年)には、年間8万人以上のフィリピン女性が興行ビザで来日し労働していた。北海道から沖縄、八丈島に至るまで、日本全国ほとんどにフィリピンパブが存在していたが、大阪府だけは(暴力団の資金源になることを恐れた大阪府警察による手入れにより)他の都市圏に比べ極端に少なかった。
2004年、アメリカ合衆国国務省による『人身売買に関する年次報告書』の中で、日本が人身売買容認国として名指しされた。数十万人いた興行査証での若い外国人女性の日本入国を「性的搾取による人身売買であり、被害者である外国人女性を全く保護していない」と報告書で批判した。
当時、日本の外交政策の最優先戦略であった国連安全保障理事会入りの目標があったこともあり、日本国政府(第2次小泉内閣)はなんら反論することなく、すぐに外務省や法務省は、興行査証の運用の厳格化を決めた。具体的には、対象エンターテイナーの過去の実績要件・契約金額の厳正適用・過去の入国時の違法行為の有無重視などである。入国管理局によって多少のずれはあったものの、これにより、実質ホステスの来日は、観光査証等で入国後の不法滞留(オーバーステイ)などの特殊ケースを除き、フィリピン人に限らず全て門戸を閉ざされることになった。
「何か詳しいこと知らないか?」
永倉はジャスミンって女に尋ねた。
「もしかしたら、アスワングに連れ去られたのかも知れません」
「アスワング?」
「フィリピンに伝わる怪物です。昼間は美しい女性ですが、夜になると空飛ぶ吸血に変身します。子供の血を好み、家屋の屋根に乗って隙間から長い舌を伸ばし、血を吸います。血を吸ったアスワングの腹は膨れて、まるで妊婦のように見えます」
永倉はジャスミンが何かを隠しているように思えてならなかった。
9月26日 - 福田康夫氏が第91代内閣総理大臣となる。
美幸はこの日も久喜で用事があった。11時に別所は久喜駅前に車で迎えに行った。千葉に向けてドライブした。途中、スタンドでガソリンを入れて16号線を走り幕張に……。幕張は近未来的な海の街。沿岸の工場もアクションゲーム『メタルギアソリッド』っぽかった。
セブンイレブンの駐車場に車を止めた。日が傾き始めている。
「ねぇ、私達終わりにしない?」
唐突に言ったので別所の頭の中は真っ白になった。
「え? どうして?」
「私、別所君についていけない。新しいカレが出来たんだ」
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