筋肉フェスティバルの恍惚(月光カレンと聖マリオ16)

せとかぜ染鞠

第1話

 怪盗でありシスターでもある俺さまは,記憶障害のせいで7歳児に戻った三條さんじょう公瞠こうどう巡査を伴い,爆弾過激犯の調査も兼ねた散歩に出かけて殺人事件と遭遇する。被害者の妻によれば,アパートの隣人すなわち爆弾過激犯から預かった帳面も奪われたという。

 半鐘塔に立ち,港湾街を見渡す。

 果たして網の目のように張りめぐる通路の西北西へ逃れる人影が。先には昼間さえ男も忌諱する無法地帯が広がる。人影を追尾すれば,女賊の潜伏する根城に辿りついた。

「さあ筋肉フェスティバルよ!」首領の有栄重うばえが,筋骨隆々たる身を宝石でちりばめた金髪青年の肩に乗り,酒杯を掲げる。「7億出すから御自慢の筋肉を披露なさい!」

 着飾った女たちに衣類を毟られ,高揚する男たちが様々なポーズをとった。歓声がわき,ひしめく人々の熱気に地下空間は破裂寸前だ。

「そこのあなた!」有栄重が指をさし,挑発の笑みを寄越した。

 俺は首を横に振る。

 が――

 三條が鼻息荒くジャケットを脱ぎすてる。まさか……よせ,よせ,坊やみたくヒョロ高の痩せっぽち,見劣りするだけさ。制止しかけて指を嚙まれた。

「僕ちゃんがいるのに,よそ見ばっかり!」ついに全裸になった。

 時間がとまった。みな息をのみ,神の創造したもうた若さ汪溢する自然美に恍惚として釘づけになる。俺もちょっと見惚れた。脱いだらすごいのな――そう思いながら下着だけ穿かせる。

「クリスタルのジュエリーボックスに月光を封じこめたみたい……」有栄重が最優秀賞を決定した。

 歓喜して酒を酌みかわし踊りくるう人々に三條の姿がのまれていく。

「正攻法で稼ぐようになったのね」有栄重が時価で7億をこす指輪を差しだす。「しかも後継者を使って」

「今夜はお勤めじゃない」指輪を押しかえす。「坊やも後継者じゃない。君こそ後継者を育てたの? だが独立させるのは尚早と見た」

 怪訝な表情をする有栄重の背後から,暗い眼ざしの娘が現れた。

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