Epilogue:タチの悪い冗談
「それで、彼女は攻め込んできた革命派に捕らえられ、次の日の正午には簡易裁判も終了し、絞首台へ。いや、火炙りだったかしら…」
灰色髪の女は楽し気に語った。時刻は深夜を過ぎ、梟や虫の声が窓の隙間から漏れていた。
「確か、打ち首だったはずです。かの有名な裏切りの英雄ジャックによって、斧で断たれたと」
私は法然としながら、そう答えた。彼女の話のどれもが、途轍もない現実感と幻想性を同包し、私へと襲い掛かってきた。
「ああ、あああ、そうだったわ。元気かしらね。ジャック」
女は感慨深そうに言った。
「貴方はどうして生き残っているのですか?断頭台を、そしてあの血みどろの革命期を、どのように生き抜いたのでしょうか」
私は全く釈然としない疑問をぶつけた。この女性が存在していること自体、信じきれないという程だ。話を聞くにつれ、猜疑と現実感の濃霧の中に引き込まれ、その只中に取り残されてしまっていた。
「“貴方”?私はヤシマじゃないわ。彼女が死んで、私が生き残った。それが答えなのかも」
女は更に濃霧の中に引きずり込みたいらしく、煙に巻くようなことを宣った。
ただ、私も記者だ。邪推の一つや二つ日常茶飯事。其処から、不都合な真実をアラ探しのように探り当てるのだ。
「もしや、スタインベックの死霊術で偽の処刑を演出したのでは?」
女は愛想のいい笑みを浮かべた。
「さあ、どうかしらね。陰謀論はどこまでも膨らんでいくものだわ。私の話せる範囲はここまで」
「貴重なお時間を有難うございます。ですが、あと一つだけ質問をよろしいですか?これに関しては至極、個人的な疑問なのですが」
「どうぞ」
「たびたび言及されていたパスタの化け物とは何なのですか?何かもとになるモチーフでも?」
「タチの悪い冗談よ。創世者の姿はスパゲッティの化け物かもしれないというね。このインタビューとそう変わりない類の…」
女は窓の外の暗い夜空を見上げた。
「実にタチが悪いわ。特に、それが真実だという所が」
(対談終わり)
公爵領から端を発した長い革命期。その終焉と共に頭角を現した企業『ラバイヤック・ケミストリー・コーポレーション』。
その創業者たるガブリエル・デストレ社長との対談は以上である。
恐らく、読者の皆さんは疑問に思っているはずである。この大変に長い記事の冒頭にて、彼女が匿名希望とのたまったにも関わらず、その名を堂々と掲載している事実を。
しかしながら、これは全くもって無問題なのである。というのも、我らがBremsen社の創立者にして、筆頭株主のレイモンド・トレイシー氏の許諾によって担保されているからである。
かの御仁の口添えもあり、さすがのガブリエル氏も首を縦に振ったようだ。本当に口添えだけだったのかは甚だ疑問だが、それを言うのは野暮というものだろう。
さて、かの有名な革命、その引き金にまつわる陰謀の特集であった。お楽しみいただき有難う。次号でお会いしよう。
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