第22話:善かれと思ってコトを成す
街は活気づいていた。迫りつつある宵闇とは真逆の燃え盛る煌々とした灯りを溜め込み、胎動していた。
スラムの広場には数えきれない程の群衆が集まっていた。
誰もが革手袋をはめ、Bremsen誌のクズ紙で出来た仮面を被り、手に手に武器を持っていた。棍棒、鋤、そして
そう、全ては予定されていたことだった。
Bremsen誌は数か月前から、貴族や地主、教会の横暴をひたすらに書き立てた。革命派は憲兵にバレることも躊躇せず、人員をスカウトし、銃の使い方を教えた。仮面舞踏会の退廃ぶりは民衆により広められ、誇張された。
一方の憲兵たちは検閲の手を緩めていた。ヤシマが傭兵を用いて、革命派のアジトを徹底的に潰したという話が出ていたから。武器や死体も押収してきたから。疑う余地はなかったから。そう思い込んでしまったのだ。
そして、この日。Bremsen誌によってビル・アケム村の特集が組まれ、この世界の歴史上初の写真が公開されたのだ。
無料で、出来うる限りの売り子でもって、拡散されたその新聞は街の万人にもたらされた。憲兵にも、徴税官にも、ポン引きにも、あらゆる人種を煽動して見せた。襲撃の計画、集合場所、武器の配布場所、ご丁寧にBremsen誌製の仮面の折り方まで掲載していた。
あらゆる場所に配置された革命派のサクラ達が声高に群衆を煽った。血の気の多い群衆と革命派達は、瞬く間に憲兵の詰所やバスタード拘置所を制圧した。冒険者組合は組合長が惨殺された後、革命派への協力を約束した。
街に彼らの襲うべき獲物が消えた後、彼らが見据えるのは郊外に佇む公爵の城のみだ。広場へ集合した群衆の攻撃性は研ぎ澄まされている。
ほとんどの筋書きはジャックとギルが進言したとおりだった。つまり、ヤシマの入れ知恵どおりだ。
張本人たるジャックは広場の壇上に立たされ、演説をぶつよう言われていた。足には新聞紙マスクの暴徒たちがジャックの演説を待っている。波打つような喧騒を響かせている。
ジャックは軍服の襟首を正し、覚悟を決め、声を張った。
「誰かが、やらなければならない!」
突き抜ける投げやりの如き一声は、群衆を静寂の義務へと駆り立てた。汝、混乱の中に新たな指導者を見つけよ。そういう風に、人間はプログラムされている。
「変えなければならない。そういうものがある。グロテスクな膿のように溜まったそれは、我々にただ耐えることだけを強い、自身が肥大化することだけを求め続ける」
群衆は唯、ジャックを見据える。少年のような小男を。ちっぽけな元脱走兵を。
「我々はただその事実から目を逸らし、変えなければならないという義務から逃げ続けた。そうして、今日まで生きてきた。全てをむしり取られ、その憤りを気づかぬうちに他国へと向けられた」
ジャックは群衆を見渡した。静寂をもたらした。静寂を武器として振るった。群衆の鼓動が一つになる。その一瞬を狙いすました。
ただ、一言。こう問うた。
「我々は何を得た?」
群衆が叫んだ。
「何一つとして無い!!!!!!」
ジャックは更に問うた。
「我々は何を得る?」
群衆が叫んだ。
「奪われた全てを!!!!!!!!!」
絶叫が響き渡り、銃声が轟き、鍋や木盾が打ち鳴らされた。
「奴らをヤッチマエ!!!!!!!!」
端的にして、明快な煽動の声。怒れる群衆と革命派は城へと歩み出した。背後では、丘上に聳え立つバスタード拘置所が燃え上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます