湊は大事な人

湊は近くのスーパーで買い物をしていた。「湊」

「…絵理」

絵理が笑顔で近づいてきた。

「湊は、今日の夕飯何にするの?」

「カレーだけど…」

「へぇ、うちもそうしようかなぁ」

「……」

湊は絵理に返事をしなかった。

「まだ、怒ってた…?」

絵理は申し訳なさそうに言った。

「はぁ…。怒ってるよ…」

「そっか…」

「……」

「湊…、パブロに何を言われたの?」

「…言わない。しかもこんな所で」

「…そうだよね…」

2人の間に沈黙が流れた。

「じゃ、外で落ち合おう?」

絵理はそう言うと、急いでレジに行った。

(この人、先に出て待ち伏せするつもりだな…)

湊は逃げられないと観念した。


湊が外に出ると絵理が待っていた。

2人は黙って歩き出した。

「湊、いつも歩幅合わせてくれるよね」

「…たまたまだよ」

「そうなの?丁度いい速さだね」

「うん。俺も」

「そっか」

2人は少し落ち着いてきた。


「…絵理…」

「ん?」

「何で俺とずっと友達でいてくれるの?」

「一緒にいると楽しいから」

「…じゃ…」

(何で俺の事、好きにならなかったの?)

「何でパブロ君と付き合ってるの?」

湊は真面目な顔で絵理を見た。

「…何でって。好きだから」

「どこが好きなの?」

「え…。…意地悪だけど頼りになる所とか、一緒にいると楽しいし、自然体でいられるから…」 

絵理は恥ずかしそうに言った。

湊はこんな表情の絵理を何度見ただろう。

幸せな顔を見るのは嬉しかったし、切なかったし、憎らしかった。

「…絵理」

「何?」

「俺はずっと本気で好きだって思う人が現れない」

「そっか…」

「俺は…、いつまで…こんな状態なんだろ」

「湊なら…、絶対幸せになるよ?」

絵理は湊を励ましたつもりだったが、逆効果だった。

「いつまで、こんな苦しくなきゃいけないんだよ」

「湊…」

絵理は湊の肩をそっと触った。

湊はその手を振り払った。

「ごめん…」

絵理の目に涙が浮かんでいた。

「何で…、泣くの?」

湊は絵理に聞いた。

「湊が苦しそうだから」

「何で?」

「湊が大事な人だから」

「何で?」

「…ずっと私のことわかってくれてた」

「そうだよ。俺等似てたから」

「うん…」

「もう行く…」

「うん…」

「…もう連絡しなくていい?」

「ダメだよ…」

湊はそう言って欲しくてこの質問をした。

湊と絵理の目があった。

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