必要とされたかった

湊と絵理は目を合わせたままだった。

「中学の時に戻りたい…」

湊は、ポツリと言った。

「私等が、友達になった時?」

絵理は不安そうな顔をした。

(パブロ君がいなかった時…)

湊は自分がなんて嫌な事を考えるんだと思って情けなくなった。

「ごめん、急いで帰らなきゃ…」

湊はそう言うと、走って去って行った。 




湊はとぼとぼ、家の方向に歩いていった。


(なんで、こうなるんだろ…。最悪だ…)


(佐和の事も…。あー…!俺だけ見ろって…!アホか、俺!消去したい!消去!)


「湊くん?」

「げ…」

湊は本当に嫌そうな顔をした。

「失礼な…」

「何で会うんだよぉ…」

湊は思わず頭を抱えた。

湊の前には佐和がいた。

「何でってたまたま…。後をつけたわけじゃないよ?」

「つけんなよ…」

「だから、つけて無いって…」

「…何してんの?」

湊は考える事が大きすぎるし多すぎるし、頭が疲弊していたので、単純な問いかけの言葉しか出なかった。

「友達とご飯食べに行った帰りだよ」

「……」

(女の子…?なんて聞けない…)

「あ、」

「……」

「女友達だよ」

「聞いてねーし」

「そ?」

佐和はキョトンとして湊を見た。

佐和は、最近湊から思わせ振りな態度をとられすぎていて、何が正解かわからなくなっていた。

わからなすぎて、もう考えるのをやめた。

「湊くんは、買い物?」

佐和は湊の持っていたエコバックを見て言った。

その瞬間、また絵理の事を思い出した。

そして、また自分がとった行動に対して罪悪感を感じ始めた。

黙ってる湊に対して、佐和は疑問に思った。


「湊くん、途中まで一緒に帰っていい?」

「うん…」

湊はもう断る気力もなかった。

「…佐和」

「ん?」

「……」

「どうしたの?」

「疲れた…」

「え?私?ごめん…」

「…違う…。…全てに…対して…」

湊の足取りはこころなしかヨロヨロしていた。

「大丈夫?」

「…わかんない…」

「…あ、一人になりたい?」

「…わかんない…。もう、わかんない…」

「大丈夫…?」

「大丈夫じゃない…」 

湊は子供が駄々をこねるように言った。

「何かあった?絵理ちゃん?」

図星を突かれた湊は佐和を睨んだ。

「あ、ごめん…」


「佐和は…」

「無理…」

「?…何?」

「もう、湊くんの言う事わかってきてるから」

「そっか…」

「湊くんでも、私の気持ちを無理に変えることはできないよ」

「でも…。嫌なんだよ。佐和見てると、自分見てるみたいで…」

「私は湊くんと全然違うよ」

「…そうだけど…」

「楽しいよ」(今、いい感じだし…)

「…そう…強いね」


「そういえば、駿太くんにも図太いって言われた」

佐和は思い出してフッと笑った。

湊は佐和から駿太の話が出て、胸がざわざわした。


「佐和」

「なに?」

「駿太の…」

(駿太の話は聞きたくない…。なんて、言えない…)

「…佐和は…、駿太のこと好き?」

「…友達としてね」

「その好きが、付き合いたいくらいのの好きに変化はしないの…?」

「今はしない」

「今は?」

(後ではするの…?)

「湊くんが、近くにいるかぎりしない」

「近く?」

「そう。例えば湊くんが、海外に移住とかしたらわからないけど」

(なるべく移住しないようにしよ…)


(ってさっきから、俺ヤバい…)


「…俺は、好きを返せないけど…」 

「前にも言ったけど、別に返さなくても、いいよ」

「え…」

「ま、返してくれるなら返してほしいけど、友達でも嬉しいし」

「…嬉しい?」

「さっきみたいに、湊くんが私に弱音吐いてくれたりとかも嬉しい」

佐和は笑った。

「…でも…」

「湊くんのくだらない話とかも聞きたい」

「…くだらない?」

「どんな話しでも聞きたいってこと…」

「なんで?」

「信頼されてるなぁって嬉しくなる」

「信頼…」

「自分はその人に必要なんだって思ったら、幸せかも」

「…幸せなの…?」

「うん。人として信頼されてるって思えたら幸せ」

「…そうか…」

「…うん」

湊は考え込むように黙った。

「…湊くん…?」

「………」

さらに黙る湊に、佐和はなんて言っていいのかわからずに黙ってしまった。


「…俺もだ…」

「?…私を信頼してくれてるって事?」

「いや、違う」

「違うんかい…」

佐和はがっかりした。


「…俺も、…絵理にとって、ただ必要な人になりたかった…」

その言葉を行った瞬間、湊の目には涙が滲んだ。

「…そっか…」

「絵理とパブロ君に必要だって思ってほしかった」

「…そっか」

「俺がいなきゃダメだって…」

「……」

「二人は…そう思ってくれてた…よね?」

「…え?!私?!聞かれても、知らないけど、そうなんじゃない?」

佐和は慌てて肯定した。

「だよね…。あー…、なんだよ…。絵理が好きだなんて…勘違いじゃん…」

湊は泣きそうな顔を歪めた。


「俺ね…」

湊は佐和に話し始めた。

「昔から取り繕ってばかりで、表面上でしか人と付き合えなくて」

「…うん…。ま、何かわかる気はする…」

「ムカつくな…」

「ごめん…。でも自分で言ったんじゃん…」

「…うん」

うん、とはいいつつ湊は拗ねていた。


「…絵理といると…、素直な自分になれて、取り繕わなくても友達でいられるのが嬉しくて」

「うん…」

「パブロ君に会った時も、すぐに素直に自分を出せた…。そういう自分にしてくれる2人とずっと一緒にいたくて…」

「うん…」


「別に…、付き合いたいと思ってたわけじゃない…」

「?」

「…?…俺、何で絵理に執着してたんだ…?」

「知らんけど」

「あ、春乃か…」

「え?」

「まだ、絵理のこと、引きずってるって言われて…。そうなのかって…」

「え?じゃぁ、好きじゃなかったの?」

「好きだよ。大好き。でも、俺の事必要だって思ってくれてたら、それで良かったんだ」

「そう思われてるんだよね?」

「だから満足だったのに…」

湊の安心したような表情を見て、佐和もホッとした。

「なんだよ」

「すごい腑に落ちてるね」

「落ちた。けど…あの二人に悪態着いちゃった…。どうしよ…」

「大丈夫でしょ」

「殴っちゃったんだよ?」

「…絵理ちゃんに取り持ってもらえば?」

「絵理にも悪態ついた。しかもさっき…」

「ふ~ん」

「ふ~んって、適当だな」

「だって…。グダグダ言ってるけど、謝ればいいじゃん」

「…はい」

「可愛い」

「うるさい」

湊は恥ずかしそうな顔で佐和を睨んだ。

と思ったら、優しく笑った。

佐和はそんな笑顔を向けられて、心臓が破けるかと思った。

 

「佐和、ありがとう」

「うん。何もしてないけど…」

「…してくれたよ」

そう言われ佐和は照れた。


「俺も、人として…、佐和の事、信頼してるよ」

「ホント?」

「うん。…必要…ともしてる…と思う」

「嬉しい…」

「話してて楽しいし…」

湊は嬉しそうな顔をしている佐和を可愛いと思った。

「付き合えないけど…」

「わかった。そこまでは好きじゃないって事だよね」

「…年齢の事が自分でも引っかかってるから」

湊は正直に言った。

「そっか」

「…犯罪まがいの事はしたくないし、させたくない」

「犯罪は言いすぎなんじゃ」

「俺、世間体めっちゃ気になるから」

「あははっ。そうなんだ」

「そうなの。超常識人だから」

「そっか。わかったよ」

佐和の返事に、湊は安心して笑った。


「…今度ご飯…行く?」

湊はおずおずと言った。

「うん。今回のお礼?」 

「…友達として、誘った」

「嬉しい」

佐和は満面の笑みで言った。

「良かった。…俺、この前一人でカフェに行ってて、気取って紅茶しか頼めなくて」

「あははっ」

「パンケーキ食べたかったなって。で、佐和と一緒ならなって、その時思って…」

「本当に?嬉しい」

佐和は目を輝かせて言った。

「じゃ、今度、行こう」

「うん。やった」


「前に一緒に行った、あの書店の中のカフェにも行きたい…」

湊と佐和は並んで歩きながら話した。

「うん。行きたい」

「…佐和が…、初めてあのフレンチトースト食べる時のリアクションを見てみたかったな…」

佐和は、湊が少し拗ねているように見えた。

(やばいっ!ドキドキして心臓止まりそう!好き…!)

佐和は湊をじっと見つめた。

「何…?」

「ヤキモチ?」

「バーカ」

湊は笑った。










※ 湊と絵理の関係は、

『 腹黒男子は遠恋中野の彼女に片思い 』

に描かれてます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る