ずっと俺だけ見て

湊は先日、偶然に佐和と佐和の友人らしき男が喋っているのを見た。

別れ際に、男が佐和の体に触れていたのを見て、湊は自分ではよくわからない苛立ちを覚えた。


湊は佐和に会って聞きたかった。

あれは何だったのか。

佐和の連絡先は知らないので、佐和と偶然会ったことがあるコンビニに入ってみた。

湊は直感で佐和に会えるんじゃないかと思った。

が、そこには佐和はいなかった。

(あれ…。勘が外れた…)

湊は、ビールを買ってコンビニを出た。

(…あいつ…。会いたくない時に会って、会いたい時に会えないんだから…)



湊は家に着いて、玄関を開けた。

「ただいまー」

「あっ!おかえり!」

リビングの方から春乃の声がしたが、その声は焦っていた。

(何だ?)

湊は靴を脱いで、リビングに行った。

「春乃?どうかした?…」

そこには春乃ともう一人、佐和がいた。

「いっ…。いらっしゃい…」

「…お邪魔してます」

春乃は2人の気まずい空気を何も感じてはいなかった。

「喋ってたら、こんな時間になっちゃってた」

「ね。話し過ぎた」

佐和が笑った。

「じゃ、帰るね。お邪魔しました」

佐和が立ち上がって帰ろうとした。

「ちょっと…」

湊が佐和に呼びかけた。

佐和は湊の顔を見た。

「送ってく…。もう、遅いし…」

「あ…、うん。ありがとう」

「じゃ、私も行く〜」

春乃は佐和の腕を掴んで一緒に行こうとした。

「…あっ、春乃はご飯炊いといて」

「えー…」

湊は一瞬で自分の言ったことを恥ずかしく思った。

(2人でいたいって言ってるようなもんじゃん…)

「…わかった。佐和、またね」

「うん。またね」

佐和と湊は2人で玄関を出た。



湊は小っ恥ずかしくて黙って歩いた。

佐和もなんとなく黙った。

だが、湊は佐和に聞きたい事があるのを思いだした。 

「あのさ…」

「何?」

佐和は少し身構えた。

「…あの男誰?」

「え?」

湊はまた変な言い方になってテンパった。

「あの…、一昨日?山手通りで佐和と男友達?みたいな人見て…」

「あぁ。中学の友達のことかな?あの日ね、高校の友達にも偶然会っちゃって。でも山手通りなら…」

「どっちも男?」

「うん。何かさ、偶然知り合いに合うと嬉しくなるよね」

佐和はニコニコしていた。

「…そうだね」

「山手通りなら、中学の時の友達だ」

「仲良かった人?」

「うん。あのクラス全員仲良かったから」

「そうなんだ。久しぶりだったの?」

「ううん。先週、同窓会したばっかりだったんだ」

「へぇ。同窓会やるってホント仲いいんだね」

「そうだね。でも、今回はあまり集まらなくて…」

「何人?」

「5人」

「えっ」

「女子2人と男子3人」

「同窓会じゃないじゃん…」

「ね。ホントはもっと来るはずだったんだけど。今、インフル流行ってるから…。何人かやられて」

「そっか」

「でも、仲いいメンバーだったから楽しかったよ」

佐和は嬉しそうに言った。

(…仲いい…?男子と…?)

「…へぇ」

「湊君は?その時何してたの?買い物?」「……」

湊は口をつぐんだ。

佐和は湊の顔が怒っているように見えた。

(私、なんかしたっけ…?)


長らく2人は黙った。

「話してただけ?」

「え?!」

湊が急に話し出したので、佐和はびっくりして声が大きくなった。

「その中学の時の友達と」

「うん」

「体、触られてた」

湊が佐和をジッと見た。

「え?!体触ってた?」

「肩…」

「…あぁ…、ツッコミで軽く叩かれたかも」

「……」

「別に痛くなかったよ」

湊は、佐和が叩かれた場所をジッと見た。

佐和はよくわからなくて、体が硬直した。

それに気がついて、湊はフイッと顔をそむけた。

「仲良くていいね」

「え…?」

「何でもない」

「…怒ってる?」

「怒ってない」

佐和はどうしていいかわからなくなっていた。

湊もこのイライラをどう収めたらいいのかわからなかった。


「ごめん…」

湊は自分が大人げない事は百も承知だったので佐和に謝った。

「ううん…」

(ヤキモチ…?なんてね…)


「…俺の事、好きでいるのやめた?」

「え?何で?…やめないよ」

「そう」

湊は佐和の目を見た。

「…?」


「…俺、佐和に振り回されてる…」

「え、それ逆じゃ…」

「…佐和」

「何?」

佐和は心臓がバクバクしていた。

「…家、着いた」

「あぁ…。送ってくれてありがとう」

湊は佐和を見る。

「佐和は…」

「え?」

「佐和はずっと俺だけ見てればいい…」

「え?」

湊はそう言うと足早に帰って行った。

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