佐和・湊が まさかの進展?!

とある日曜。

湊は街の大型書店にいた。

湊は、休日にこの書店に行くのが好きだった。

本も良いが、その書店の中にあるカフェもお気に入りだった。


湊がそのカフェがある二階に行こうとエスカレーターに乗ると、交差する下りのエスカレーターに佐和が乗っていた。

「おぉっ」

「えぇっ」

二人共ひどく驚いた顔をした。


湊は佐和とちゃんと話さなきゃいけないと思っていたので、ここで会ったのはいい機会だと思い、佐和に会いに下りのエスカレーターに乗った。


「ちょっと!なんで、上ってくんの?」

「湊君も」

二人はまた、エスカレーターですれ違った。

「上行くから、待ってて」

湊は少し大きな声で言った。

(恥ずいな…)


「佐和」

湊が小走りで佐和の方へやってきた。

「湊くん。…何か可笑しかったね」

「ね」

二人は笑った。


「佐和、本買いに来たの?」

「雑貨見にきた」

「あぁ、ここのカワイイよな。前に春乃の誕生日プレゼント買った事ある」

「…シスコン」

「うるせーよ」

湊は佐和を軽く睨んだ。


「ここで、彼女のプレゼントも買った事あるし」

湊は ” 彼女 " というワードを出して佐和を牽制しようとした。

「今、彼女いるの?」

「今は、い…ない。」

「じゃ、元カノか。どうでもいいんだけど」

「…お前、ホント図太いな」

「気にしてもしょうが無いから」

「少し気にしろよ」

「時間て、有限だから。時間も気持ちも無駄にはしたくない」

「なるほど…。って片思いは違うの?」

「違うよ」

「報われない思いは、無駄ではないの?」「そうかもしれないけど、コントロールできないでしょ。そんなの。それをコントロールしようとする時間こそ無駄な気がして…」

「なるほど…」

「バカにしてる?」

「いやいや」

湊は感心したように佐和を見た。


「佐和さ、これから時間ある?」

「あるよっ」

佐和がの返事の勢いが凄くて、湊は笑ってしまった。

「ここの、カフェ行かない?」

「行くっ」

「子供か」

湊は呆れたように笑った。


「私ね、ずっとこのカフェに入ってみたかったの。でも、勇気がでなくて…」

「あー、入りづらいよね」

2人は席について、メニューを見ている。

「これ。表の看板にあったパンケーキ。これが食べたくて…」

「あぁ、それ普通に美味しいよ」

「失敗はないって所か…」

「俺は、このフルーツフレンチトースト、一択」

「へぇ、美味しそう。でも、私はやっぱりパンケーキだな。フレンチトーストはまた、次回…」

「えー、次回は無いよ?」

「…別に湊くんと来るとは言ってないよ…」

「あ…、そうだよな。…恥ず…」

湊は顔をそむけた。

「あははっ。一緒に来てくれる?」

佐和は頬杖をついて湊を見つめた。

「嫌だ」

「じゃ、友達と来ようかなぁ」

「俺、ここ頻繁に来るから、会ったら嫌だなぁ…」

「ここ高いし、めったに来ないと思うよ」

「学生だもんね」

湊はなるべく上から目線で言った。

「うん。だから、自分へのご褒美に」

「…何のご褒美?」

「テストとか」

「学生だもんね」

「…おじさんだもんね」

湊も佐和も一瞬、ムスッとした。


「9 歳も離れてるからね」

湊は年の差を主張した。

「…人を好きになるのに年は関係ないよ」

「…関係あるよ。17歳に手を出すの犯罪でしょ」

「お互い好きなら問題無いよ。注文しよ」

佐和はボタンを押した。



「湊くんのフレンチトーストやばっ」

テーブルに運ばれて来たフレンチトーストの上のフルーツの量を見て、佐和は驚いた。

「やばいしょ?」

湊は勝ち誇ったように笑った。

「でも、パンケーキも美味しそう。いただきます」


「んっ!パンケーキ美味しいじゃん!」

「うん。俺、美味しいっていったじゃん」

「普通に美味しいって言うから…」

「…?あたり前に美味しいって事だよ」

「…そうだけど、すごい美味しいよりは、格が下がるでしょ」

「そうなの?」 

湊はフレンチトーストを食べながら言った。「そうだよ」

「じゃ、俺、ずっと間違えて使ってたわ」「……」

「何?」

「元カノの手料理食べた感想で、言ってなかった?」

佐和は軽く湊を睨んだ。

「彼女の作った料理なんて食べないよ」

湊は、とんでもないといった感じで言った。

「ならいいけど」

「ご飯食べに行った時は、言ってたかもね」

「コレ美味しいんだよって勧めてくれた料理に、普通に美味しいは、ダメだと思うよ」

「…そうなんだ」

湊は、何かを思い出すかのように斜め上を見た。

「そういえば、嫌な顔してたかも…」

「うわっ」

佐和は、ほらねと言わんばかりの顔をした。

「ムカつくな…」

「子供っ」

「腹立つな…」

「子供っ」

「子供でいい。ムカツク」

「あはは」

湊も、拗ねながら笑った。


「佐和、フレンチトースト一口食べてみる?」

「え?いいの?」

「いいよ。取って?」

湊は、お皿を佐和の方へ近づけた。

「あ、新しいフォーク…」

「別にいいよ。潔癖じゃないし…」

「そうなの?じゃぁ、」

佐和は、フレンチトーストにナイフを入れた。

「そんなんでいいの?」

「うん。いいの」

「もっと取っていいのに」

「…湊くん、怒りそうだから」

「怒るかいっ」

湊は笑った。


「はぁ、楽し」

佐和は笑いながら、言った。

「お茶も飲んでいい?」

湊は佐和に聞いた。

「うん」

「ここは、ハーブティーが美味しいんだ」

「ハーブティー飲んだことない」

「飲んでみ?」

「うん」


「あ、美味しい…」

「だろ」

「はぁ、落ち着くね」

「…1人だともっと落ち着いたんだけど…」

「自分で誘ったんじゃん」

「まぁね」

湊は口数少なめにゆっくりとハーブティーを飲んだ。

「じゃ、行こ」

「うん」

湊は伝票を持った。

「あ、自分の分払うよ」

「いいよ。俺が誘ったんだし」

「でも、」

「大きくなったら、奢ってよ」

「子供じゃないんだから…」

湊は軽く笑ってレジの方へ歩いていった。


「ごちそう様でした」

「いいえ」

「じゃ、」

「…忘れてた!」

「何を?」

(普通にご飯を食べてしまっていた…)


「私の聞きたくない話だな?」

「そう」

「…でもさ、今日、楽しかったよね?」

「え?うん…」

「じゃ、このまま別れようよ。いい気分のまま」

「…そう言って、ズルズルと佐和を無駄に縛り付けたくないんだけど…」

湊は真剣な顔で言った。

「…何か、いい感じだと思う」

「何が?」

「私と湊くん」

「どこが」

「話してて、楽しいし」

「…妹だからね」

「妹じゃないよ?」

「気持ちは妹」

佐和は黙った。


「それに、俺、今、アンナと会ってる」

「そうなの?」

「うん。前に偶然会って」

「付き合ってるの?」

「付き合ってみてもいいかなって、多分お互い思ってる」

湊は佐和の反応をみた。

「…」

「だから、もう佐和とは…」

「付き合ってみてもいいって…。また遊びで付き合うの?」

「…何だよそれ」

湊はイラッとした。

佐和はそれを見てビクッとした。

「あ、ごめん」

「いや、俺も…ごめん」

湊は謝った。


「…湊くん、付き合ってもいい、とかじゃなくて…。ちゃんと好にきなってから付き合ったらいいのに…」

佐和は勇気を出して踏み込んだ。

「……」

「ずっと好きだって言ってた人は?」

「別にもういいんだよ…」

「…じゃ、アンナさんの事、本気で好きなの?」

「…好きになっていければいいと思う」

「…付き合いたいって気持ちより、本気で好きって気持ちの方が先にくるものじゃないの?」

「何がわかるんだよ…」

「付き合ってもいいなんて軽い気持ちで誰かと付き合っても…」

「うるさい…」

「また苦しくなるだけじゃないの?」

「うるさいって」

「…。…私も、孝司と同じタイプだから」

「?」

「自分の事は、ポンコツでも、人の事は見えてると思う」

「…だとしても、佐和にはわからないよ。誰かと付き合ったこともないくせに」

湊は自分が酷いことを言っているとわかっていたが、止まれなかった。

「そんな軽い気持で付き合うのやめてよ…」

「軽いって決めつけんな」

「…軽いじゃん」

「関係ないだろ…」

「…関係ないけど、でも…」

「もうこの話終わり」

「また、逃げるの?」

「俺がいつ逃げたんだよ」

「…ずっと好きな人の事から」

「…面倒くさいんだよ…」

湊は、佐和を残して行ってしまった。


(あぁ…大玉砕…)

佐和は不思議と涙は出なかった。

湊の心の闇を感じた時から、佐和は逆に冷静になっていった。

(これは本気で嫌われたかな…)

それすらも冷静に考えていた。

(もう、なるようにしかならないし。帰ろう…)



佐和が書店から出ると湊が壁に寄りかかって立っていた。

「え…。湊くん…」

湊は横目で佐和を見た。

気まずいのかその目は泳いでいた。

「どうしたの?」

佐和は恐る恐る聞いた。

「ごめん、ひどいこと言って…」

湊は謝った。

「ううん!全然…。私も…ごめん」

佐和も大きく首を振って謝った。

「…それだけ、言いたくて…」

「…うん。…ありがとう…、わざわざ…」

「ごめん」

「私、全然傷ついてないから、大丈夫」

「全然…?」

湊はフッと笑った。

佐和も恥ずかしそうに笑った。

「…じゃ。俺、寄る所あるからここで」

「うん」

2人は軽く手を振って別れた。

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