こんなんじゃ愛想つかさない
「アンナ」
湊はアンナに駆け寄った。
「湊、早いね」
「アンナの方がもっと早いじゃん」
湊は笑った。
今日は、2人で美術館に行く予定だ。
「湊、きっと待ち合わせ時間より早く来ると思って、さらに早く来てやった」
アンナはフフンといった表情で湊を見た。
「あははっ。いつからいたの?」
「20分…25分前くらい」
「あははっ。早すぎ」
「ちょっとやりすぎた」
「だな。次からもっとゆっくりおいでよ」
「うん。そうだね。じゃ、行こ」
アンナは湊の腕をつかんだ。
湊はびっくりしたが、腕を組みやすいように体を少し近づけた。
「湊は、美術館に興味なかったかな?」
「ううん。すごい興味あるってわけじゃないけど、何回か行った事はあるよ」
二人はゆっくり歩きながら話した。
「好きな人と行ったの?」
「…え」
「違うの?」
「そうだけど…、なんで当たるかね…」
「デートはしてたんだ」
「違うよ。妹とあっちの弟も一緒」
「へぇ。そうなんだ」
「そうなの」
「デートって言っても良さそうだけど」
「そう思ってたの俺だけ」
「寂し」
「あははっ。そうなの」
「ゴッホ展は初めて?」
「うん。楽しみ。あの有名なヒマワリくらいしか知らないけど」
「だよね。生で見ると何かすごいよ。こう…、怨念のような…」
「あー…。ゴッホって絵の具食ってたんでしょ?」
「そうみたいだね。やばいよね」
「やばいね」
2人で美術館に入ると、チケットを買い、展示を見て歩いた。
アンナは集中すると会話が耳に入ってこない事がしばしばあり、湊は、正直、絵はよくわからないのでゴッホの生涯が書いてあるパネルをじっくり見ていた。
「湊、ごめん。出よっか」
「うん」
「ごめんね。見るの遅くなっちゃって」
「いや、俺パネル見てたから」
「パネル?」
アンナはクスクス笑った。
「本読むの好きだから、面白かったよ」
「なら良かった」
湊は、帰り道、アンナがまた腕を組むんじゃないかと身構えていたが、今回はそれは無かった。
「まだ、時間あるならご飯行かない?」
湊はアンナを誘った。
「いいね。どこがいいかな?」
「俺、行ってみたい所あるんだけど…」
「…そうなの?」
湊は、ハッキリとした返事をしなかったので不安になった。
「あ、行きたい所あった?」
「ううん」
「?」
「今日はご飯食べる約束はしてなかったのに、調べてあるから…」
「恥ず…」
「ううん、嬉しいよ。昔も、デートのときは、ちゃんと調べて来てくれてたもんね」
「恥ず…」
「あははっ。どこに行くの?」
「そこ」
「近っ」
「美術館で、歩き疲れるかなと思って…」
「わざわざそんなことまで考えて頂いてありがとうございます」
アンナはペコリと頭を下げた。
「恥ず…」
「嬉しいよ。行こう」
アンナは湊の肩をポンと叩いた。
2人は店の席に座ってメニューを見ていた。「ここのね、ランチプレートが美味しそうだなって思ってて」
「ホント。じゃこれにしようかな」
湊は店員を呼んで、同じものを2つ頼んだ。
ついでにワインも頼んだ。
「昼からワイン…。贅沢だね」
「ね。大人のなせる技」
「大人のだめな所じゃない?」
「いいんだよ。大人を実感できる」
「?実感してないの?」
「妹と妹の彼氏といるとね。つられて、精神が子供になる…」
「春乃ちゃんの彼氏と、仲いいんだ」
「仲良くは、ないよ。腹立つし」
「春乃ちゃん取られるから?」
「ま、それもあるけど。ナマイキだからな」
「あははっ。湊って春乃ちゃん絡むとムキになるんだね」
「そうだね」
(春乃が絡んでなくても、ムカつくけど…)
「うん。普通に美味しいね」
湊はランチプレートのパスタを食べて言った。
「そう?スゴく美味しいよ?」
「あ…」
「ん?」
アンナは不思議そうな顔をした。
「この間、あの前にあった佐和にね、注意されて」
「何を?」
「普通に美味しいって、褒め言葉として少し弱いって」
「そう…ね」
「それ、気が付かないで、ずっと使ってたって言ったら、バカにした顔してきて…。腹がたって…」
「腹立つの?」
「いや、本気じゃないよ。もちろん」
「そうだよね」
アンナはプレートのサラダを食べる。
「佐和ちゃんとご飯行ったんだ」
「たまたま会ってね」
湊はアンナの反応を見たが、特に変化が無い用に見えた。
「佐和に、付き合えないって言ったんだけどね。諦められないって言われて」
「へぇ、若いね」
アンナは目を丸くした。
「そうだね。それで。もう一回話したほうがいいと思って。たまたま会ったの良い機会だと思ってランチ誘って…」
「そうだね」
アンナはあまり、興味がなさそうに聞いていた。
「なのに、」
「?」
「料理が美味しくて、当初の目的忘れて普通にご飯食べて帰ろうとしちゃって。帰りにあ!って」
「その日は言わなかったの?」
「言ったけど。そういえば、反応どうだったかな…」
「ふーん」
湊は、料理を食べる手が止まっていることに気がついた。
(くだらない話を夢中でしてしまった…)
そんな湊を見たアンナはニッコリ笑った。
「…何?」
「可愛いね」
「恥ず…」
「何も恥ずかしく無いのに」
アンナは大真面目に言った。
「それで?」
「何が?」
「佐和ちゃんとは」
「え?」
「いや、その曖昧なまま帰ったの?」
「あぁ…」
「何?」
「…ケンカ…、みたいになって」
「高校生と?」
「うん…」
「何で」
「俺の…恋愛に対して、あーだこーだうるさくて…」
「で、ケンカ?」
「…みたいな」
「……」
「あー…、そういえば…」
湊は、その日の事を思いだしていた。
「うるさいとか言っちゃった……」
湊はつぶやいた。
「ひど」
「あー…、面倒くさいとかも…」
湊は頭を抱えた。
「ひど…。でも、愛想をつかせるっていう作戦としてはいいかもね…」
(あー…、たぶん、こんなんじゃ愛想つかさない…)
湊とアンナの中学生時代の話は、
☆腹黒男子は遠恋中の彼女に片思い
で描かれてます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます