佐和と湊の距離

とある土曜のお昼。

佐和と湊は、前に約束していたランチに行くため、駅の前で待ち合わせをしていた。

佐和は、先に待っていた湊を確認すると焦って駆け寄った。


「湊くん」

「ん」

湊は佐和を見た。

「遅くなってごめんね」

「ううん。大丈夫」

湊は持っていた携帯を鞄にしまう。

「店まで、電車で行くの?」

「歩き。ここから近いから」

「へぇ。楽しみ」

佐和は笑った。


2人は並んで歩き出した。

「私服、可愛いね」

「…。…そんな事言ったら勘違いしちゃうからやめて」

佐和は少し怒ったように言った。

「…でも、言わないわけにも、ね」

「リップサービス?」

「そうだけど、そういうのネタバラシしないほうがいいんじゃない?」

湊は不思議そうに佐和を見た。


「私は湊くんと対等でいたいので、そういうのいりません」

佐和は湊の目を見て行った。

「ふ~ん」

「お世辞とかいらない」

「わかった」

「うん」

「私服、可愛いね」

「コラッ」

佐和のツッコミに、湊は笑った。


「 別に本心だから。佐和がそれ以上の期待をしなきゃいいだけじゃん」

「もて遊ばれてる」

「ごめん」

「もて遊ばれたいからいいの」

「…ホント馬鹿だよな」

「いいの」

「気持ち悪…」

「ちょっと…!」

「あはは。あ、このカフェだ」

湊は逃げるように、速歩きでカフェに向かった。



2人は店内に入って、案内された席に座った。

「このカフェ、おしゃれだね。彼女と来たことあるとか?」

「いや。前にインスタで見て、ずっと行ってみたかったんだ」

「へぇ」

「今回、いい機会だった」

「ふ~ん」

佐和は、メニューをじっと眺める。

「あんまり、好きじゃなかった?」

「ううん。来なれないだけ」

「そっか。後でパフェも食べる?」

「いいの?」

「うん。俺も食べたいから」

「甘いもの好きなの?」

「うん」

「へぇ。意外な一面」

「可愛いだろ」

「悔しいけど」

「あはは。…佐和と2人でガッツリ話したの初めてだな」

「そうだね」

「まぁまぁ楽しいね」

「まぁまぁでも楽しいなら良かった」

「まぁ、少しね」

「少しでも楽しいなら良かった」

「ほんの少し」

「うざ…」

「嫌いになった?」

「そんな嬉しそうに聞かないでよ…」




「あ、料理きたよ」

2人の前にオムライスが並んだ。

「美味しそう…」

「きれいだね」

「…食べ物の感想でキレイって言うの、食リポの人しかいないよね…」

「感性が、足りないんじゃない?」

「そうかな」

「そうです。じゃ、食べよ」

「はーい。いただきます」


「美味しい。とろふわ〜」

佐和は感動したように言った。

「んー、ちょっとバター効きすぎかな…」「ちょっと。そんなこと店で言わないの」

「…母ちゃん」

「わかった?」

「あははっ。うん」

「子供みたい」

「意外とね」


「湊くんのこと、知れば知るほど好きになるなぁ」

「やめてよ…」

「今までの彼女たちも、遊びで付き合ってくれてたの?本気にならない?」

佐和はオムライスを口に入れた。

「なったら。そこで終わり」

湊は少しも表情を崩さずオムライスを食べ続ける。

「冷た」

「逆じゃない?本気の子と遊びで付き合ったら、失礼極まりないでしょ?」

「そうかなぁ」

「佐和は感覚ズレてるから」

「そうかなぁ」

「だと思うけど」



「じゃ、パフェいく?」

「私、お腹いっぱい…」

「そっか…」

「湊くんだけ食べればいいじゃん」

「恥ずかしいからヤダ」

「いいじゃん」

「嫌だって」

「…恥ずかしいからとか、カッコ悪いからとかやめてみたら?」

「やだよ」

「それって、何やってもカッコいい人の特権なのに」

「だから、カッコよくないって」

「自信持って」

「…はい?意味わかんない」

「そう?あっ、すいませーん」

佐和は、店員を呼んだ。

「佐和っ」

「頼みなよ」

佐和はニコッとした。


「お待たせ致しました」

店員が2人のテーブルまで来た。

「…このピーチのパフェ1つ」

湊は、渋々注文をした。

「あと、この抹茶パフェ」

「ピーチパフェ1つと抹茶パフェひとつですね…」

「以上で」

「はい、かしこまりました」

店員は、2人がいる席から離れた。


「2つも食べるの?」

佐和の目が大きくなった。

「1個佐和の」

「だから、お腹いっぱいだって」

「残ったら俺食べるから。少しでいいから佐和も一緒に食べてよ」

「ありがと…」

佐和が少ししょぼんとした。

「一口も食べたくなかった?」

湊は心配そうに聞いた。

「違う。ちょっとは食べたいって顔してるのバレたのかなって」

「バレてないけど、別にバレてもいいじゃん」

「子供っぽいじゃん」

「そんなん気にするのが子供っぽいよ」

「あ。しまった…」

「あはは」

佐和は、湊が自分を見る目があまりにも優しかったので、また胸がギュッと締め付けられて苦しくなった。

「大丈夫?」

「悔しい…」(心読まれてる…)

「あはは」

(悔しいけど、好き)


湊は、笑うのをやめて、そっぽを向いた。

「何も言ってないのに振るのやめて」

「すげ…」

あまりにも的を得ていたので、湊は、驚いた。

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