番外編 学園祭で孝司を見て、俺、いけんじゃね?と無謀にも行動を移した男・河原

下校時間。

春乃と孝司は、いつも通り駅で待ち合わせをして帰っていた。


「春乃ちゃん」

春乃は声のする方を見た。

「河原くん」

「あ、彼氏さんも一緒だったんだ」

「うん」

孝司はペコっと頭を下げた。

学園祭で、たこ焼きを売っていた人だと、孝司は思った。

あの時は、少し嫌な感じだと思ったが、今日もやはりそう思った。


「春乃ちゃんの家ってどのへんなの?」

「中央区だよ」

「へぇ。彼氏さんもだよね?」

「そうだね」

(何、普通に話しだしてるんだよ…)

「幼馴染みって聞いたけど」

「うん。そうだよ」

春乃は、嬉しそうに言った。

孝司はその顔を見て、少しだけ気分が晴れた。

「いいなぁ。役職ですね」

河原は、孝司に笑顔を向けた。

孝司も笑顔を返したが、顔はひきつっていた。

「去年、中野と付き合ってたから、まだ付き合ってそんなにたってないの?」

「んー、トータル2年くらい?ね?」

「そうだね」

孝司は答える。

「え?」

「付き合って別れて、また付き合って…だから」

「そうなんだ。でも、幼馴染みっていっても、そんなには付き合い長くないんだね」


孝司は、イライラしていた。

(何だその中身のない会話は。駿太の名前、わざわざ出して、あおってるつもりかよ。バカなのか?)


「でも、その分、付き合う時、盛り上がったよね?」

孝司は春乃に言った。

「え、うん…」

春乃は赤くなった。

「へぇ。ラブラブ」

「そうだよ」

孝司がそう答えると、今度は河原がイラッとした。


「春乃ちゃん、めちゃくちゃモテるし、彼氏さん、心配でしょ」

「そうだね。ヤキモチ妬きまくり」

春乃はさらに顔が赤くなった。

「俺、ベタ惚れだから」

「もう…、恥ずかしいから言わないで」

「ごめん」

孝司は、春乃の顔を見て笑った。


「ベタ惚れか。春乃ちゃん可愛いからわかるな」

「わかってたまるか」

「え?」

「どうせ、外見しか見てないんでしょ?」

「はい?」

「性格も仕草も、笑顔も怒った時も、泣きそうな時も、どんだけ可愛いの知らねえだろ」

「や、何?急に?」

河原はバカにしたように、言った。


「もう、あっち行ってくれる?」

「何だよ。偉そうに」

「孝司っ」

「春乃。わかんないの?この人、ずっと、あおってきてるの」

「え…」

「あおってないよ。ヤキモチ妬きすぎだよ」

「じゃ、ヤキモチ妬いちゃうから、春乃、もう2人になりたい」

「う、うん」

「小せえ男…」

河原はボソッと言った。


「じゃぁ、失礼します」

孝司は、春乃の手を握って、引っ張った。

「ごめんね、河原くん」

「ううん。じゃ、また明日」

(はっ。"明日"ね。またあおってんよ)


「孝司」

「あ。ごめん。カッとした…」

「ううん」

孝司は、だいぶ大人気なかったと反省した。

「嬉しかったよ?」

「ごめん…」

「ホントだよ?」

春乃はニッコリ笑った。

「あいつ、嫌い」

「あははっ」

「笑い事じゃないよ。前に駿太が言ってたけど、付き合ってる人いても、声かけてくるやつってアイツだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「バカ」

春乃は、孝司の腕に頭をくっつけた。

「ちゃんと気をつけるね」

「ん…」

「孝司が、そんなに私の事、可愛いって思ってくれてるなんて知らなかった」

春乃はふざけたように言った。

「コノヤロ…」

孝司は春乃のほっぺをつまんだ。

春乃は、その手を払って叩いた。

また、孝司がつまんだ。

春乃がまた手を払うと、孝司は笑った。

春乃は手を繋ぎなおしてまた、頭を孝司の腕にくっつけた。


遠くから、河原が2人を見ていた。

(やべぇくらいラブラブじゃん…)


河原の思惑は泡のように消えた。

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