キレイに別れてあげられなくてごめん

春乃は、ついに駿太に別れを告げる決心をした。


「駿太…」

朝、春乃は学校の玄関で駿太に話しかけた。

「あ、おはよ。何?」

駿太は靴を履き替えながら言った。

「今日、一緒に帰れる…?」

「珍しいね」

駿太はフッと笑った。

「俺、日直だから、帰り教室でちょっと待っててもらっていい?」

「うん…」

「じゃ、帰りにね」

駿太は教室に向かった。


駿太は、いつも通りだった。

駿太が取り乱したりした所を春乃は見た事がない。

そこが一緒にいて楽な所だった。

でも、何を考えているのか分かりづらい所でもあった。


帰りのホームルームが終わって、駿太は春乃に目配せをした。

春乃は少し頷いた。

ちょっとカレカノっぽいと思った。

好きじゃないとはいえ、付き合ってい日々を実感した。


「おまたせ」

駿太が、軽く駆け足でやってきた。

「フッ」

駿太が春乃の顔を見て笑ったので、春乃はびっくりした。

「顔」

「何?」


「…。じゃ、帰ろ」

「え、何?」

春乃は訳が分からなくて戸惑った。

「愛さんみたい。ヨネダ2000の」

「え?」

「顔」

「え?」

「ぺったんこーって言ってみて」

「なんで?」


「じゃ、帰ろう」

駿太は笑って言った。

「なんで?」

不覚にも春乃も少し笑ってしまった。


帰り道は、会話も少なかった。

「寒いね…」

「うん…」

「春乃は寒いの苦手そう」

「うん、苦手」

「俺も…」


春乃はなかなか切り出せずにいた。

「ね」

急に駿太に話かけられてびっくりした。

「え?!」

声が大きくなる。

「ハハッ。ほんと面白いね」

春乃は顔が赤くなった。

「そういうトコ、好きだよ」

「え?」

「聞こえなかったならいい」

「聞こえたけど…」


「ねぇ」

次は春乃から話始めた。

「ん?」

「別れたい…」

「うん…」

「ごめん…」

「うん…」

春乃は下を向いた。


無言の時間が続いた。

「春乃…。…もう顔、あげなよ…」

「うん…」

その瞬間、駿太は春乃を腕を掴んで、引き寄せてキスをした。


唇に触れたそのすぐ後、春乃は反対の腕を掴まれて、駿太から引き離された。

「間に合わなかった…」

孝司だった。


春乃を挟んで、孝司と駿太が見合った。

「…殴んないの?」

駿太が孝司に聞いた。

「…。殴れないの」

「何で?」

「そういう教育を受けて育ったから」

「ハハッ。"たかし君"の両親のお陰で命拾いした…」

「親いないから、兄姉の教育」

「…そっか」


「ごめんね」

駿太は春乃に話しかけた。

春乃は、顔が硬直している。

「…春乃が思ってる俺の人物像って…」

「?」

「実は違うんだよ」

「え…」

「ごめんね、"たかし君"いるの知っててキスした」

「え…」

「やな奴だな…俺。キレイに別れてあげられなくてごめんね…」

下を向いた駿太は、悔しそうな顔をした。

春乃は駿太が感情をあらわにするのを初めて見た。

「…じゃ」

駿太は小さな声で言って去っていった。


春乃は放心状態だった。

駿太にキスをされたところを孝司に見られたショックが大きすぎた。

「春乃…。行こ…」

孝司は春乃の手を軽く引っ張って、春乃を家まで送った。


春乃が放心状態だったので、孝司がチャイムを鳴らした。

兄の湊が出た。

「どうしたの?」

湊は驚いた様に言った。


「…彼氏となんかあった?」

湊はいつも勘がいい。

「…」

春乃が黙っていたので、孝司が頷いた。

「別れたの?」

「…。うん…」

孝司が代わりに答えた。

「…彼氏の事はずっと蛇の生殺し状態だったんだからね。多少の罵詈雑言はしょうがないよ?」

「…」

春乃は黙る。

「春乃にも責任、あるよ」

「湊君…」

「1番は孝司のせいだから」

「え?!」

「呪われてたとはいえ、春乃に寂しい思いさせたから、こうなったんだからね」

「うっ…」


「じゃ、孝司は今日は帰りな」

「え…、うん」

「また」

「またね…」


春乃の事は気になったが湊に任せて孝司は家に帰った。


「春乃、何があったの?」

湊は優しく聞いた。

「駿太にキスされた…」

「そっか…」

「孝司に見られた…」

「うん、そっか…」

春乃は泣き出した。

湊は、春乃の頭をぽんとした。

また春乃の目から涙が出た。

春乃は、昔から辛いことがあると湊に話を聞いてもらっていた。

普段は泣かない春乃も、湊の前だと簡単に泣いてしまう。


「孝司の前でも、こうやって泣けるといいね」

「泣けない。昔から、人前では泣かないできたから…」

「…うん…ごめんね無理させてきて」

「…珍しいね…そんなこと言うの…」

春乃は少し笑った。

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