…欲しくならない?

「ね」

「ん?」

孝司と春乃は小林家のリビングにいた。

「今日も風強いよ?」

「あぁ…。そうだね…」

「早く帰る?」

「うーん、これくらいなら大丈夫」

「そっか」

春乃は少し嬉しそうな顔をした。


「春乃にはさ、詳しく話してなかったんだけど」

「うん?」

「あ、いつか言おうって思ってんだけど」

「うん」

「俺小5の時さ、怪我したじゃん?」

「うん、何か看板外れてそれが、腕にあたって…」

「うん」

「あれね、実は死にそうだったの」

「運良く当たらなかったの?」

「ううん」

「…」


「矛盾点多い話だけど、質問なしでお願いできる?」

(※彼は魔法使いで意地悪で好きな人…エピソード0 孝司の危機 参照)


「わかった…」

「あの時、雪と風が半端なくて。で俺、外歩いてて。したら結構な大きさの看板外れて…」

「うん…」

「直撃したの」

「うそ…」

「病院に運ばれたけど、手の施しようがないって」

「…」

「結果的に助かったんだけど、死にそうになってる姿、絵理はもろに見たみたいで。まだね、思い出すと泣くんだ」

「…そう…なんだ」

「だからね、風強い日早く帰んないと。絵理がね、心配するから…」

「そっか…」


「湊君にも話さないでほしいんだけど」

「うん」

「それ助けてくれた医者がいたって話はしたよね」

「うん」

「パブロ兄ちゃんなの」

「え?!」

「誰にも言えない話をして申し訳ないんだけど。そうなの。あ。質問はなしで」

「え」

「あ…、ごめん。随分と我儘なこと言ってるけど…」

「いや…、今に始まったことじゃないから…」

「何それっ」

孝司は声を出して笑った。


「パブロ兄ちゃんはね。俺を助けた事で全部失わなきゃいけなくなったの…。絵理のことも…」

「…」

「それも結果的に大丈夫だったんだけどさ。だから、兄ちゃんの事すごい感謝してるし。尊敬してる」

「うん」

「ああいう人になりたくて…、勉強しまくってた」

「うん…」

「パブロ兄ちゃんはね、そんな事より、俺がのほほんとでも、ただ生きてくれればそれで良かったって」

「うん」

「幸せになって欲しいって言われた」

「うん」

「それ言われたとき」

「?」

「春乃が、一番に浮かんだんだ」

「うん…」

孝司は赤くなった顔を隠すために下を向いた。

「勉強して、医者になる事より…」

「………」

「てな感じです…」


「風強いし、帰ろうかなぁ」

孝司は恥ずかしくなり、帰ろうとした。

「私も…」

「ん?」

「パブロ君に感謝だな…」

「…うん」

「今、孝司に会えてる」

「うん」

孝司は、優しく笑った。


「視線熱いよ?」

孝司は笑って言った。

「奇跡の子だから」

「レアだよ」

「そだね」

「欲しくならない?」

「ずるい」

「レアだよ?」 

「しつこい」

春乃は笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る