早く…、俺の彼女になってよ…

孝司が小林家に通うようになって数週間。

孝司が小林家にいる時は春乃とリビングで話す事が多くなった。

春乃が居ると、湊が寄ってこないからだ。


「湊君と離れられて良かった…」

孝司はのびのびとしている。

「結構いい所もあるんだけどね」

「うん。そうだね」

「ホントだよ?」

「うん、わかってる。湊君が、ここに毎日来たらいいって言ってくれたから」

「そうなんだ」

「うん。それに湊君のおかげで、英語の成績あがったしね」

「そっか」

「うん」


「今日、風が強かったね」

「うん、今どうだろ…」

「ちょっとおさまったかな…」

「ごめん、おさまってるうちに帰らなきゃ」孝司は焦って、帰る用意をする。

「前から…、思ってたんだけど」

「ん?」

「風強い日、すごく気にするよね」

「…うん。絵理達、心配するから…」

「そうなんだ…」

「今度話す!じゃまたね」

「うん」


「ただいま!」

「おかえり」

絵理はホッとした様子で言った。

「ちゃんと気をつけてるから…」

「うん…」


「春乃ちゃんとどう?」

「うん、まぁまぁ」

「湊の事は?」

「うん…、なんとか」

「頑張って」

「恥ずかしいから、その話あんましないで…」

照れくさそうに部屋に入って行った。

(かわいいかよ)

湊と同じ感想だった。



孝司が小林家に行く途中、春乃と駿太に会った。

「あ…」

孝司と春乃は気まずそうにしていた。


「あ、こんにちは」

駿太は気にせずに言った。

「こんにちは…」

「なんか、春乃のうちに通ってるって聞いたけど…」

「うん」

「そっか」

3人は沈黙した。


「じゃ、ここで大丈夫。バイバイ」

「うん、また明日」

「…」

「じゃ」

駿太は孝司にも挨拶をした。


「まだ、付き合ってるの?」

「…よくわからない…」

「…別れなよ」

「うん…」


2人は目もあわせず、家に向かった。

孝司はリビングで、春乃が着替えてくるまで、本を読んでいた。


「ねぇ」

春乃が孝司に話しかける。

「ん?」

「…どうやって別れたらいいの…?」

「自分で考えたら?」

「…」

「俺、さっきの、嫌だった。こんなの言える立場じゃないけど…」

「うん…」

「早く…、俺の彼女になってよ…」

孝司は、春乃から、目をそらしながら言った。



とある日。

湊は谷川家に遊びに来ていた。

そこで孝司と会った。

「おう。春乃と喋れるようになった?」

孝司は湊に聞かれた。

「うん」

「俺すごくない?作戦通りじゃん」

「うん、辛かったけど、湊君が」

「それも含め作戦なんだけど」

「え?」

「俺のところから、逃げ出して春乃のとこ行けるようしたんじゃん」

「うそだぁ。ただ、いじめたかっただけじゃないの?」

「単純だなぁ」

「…信じられない…」

「谷川家は、みんな純粋だもんね」

「バカってこと?」

「…悪く言いかえればね」


孝司はムッとした。

「可愛いじゃん、皆」

「バカってこと?」

「しつこいなぁ。ここは素直に受け取りなさい」

「はい…」

「春乃も、ど天然だし、俺の周りは皆そうだから、俺が捻くれてみえるんだよ」

「そうかな…」


「ま、春乃とより戻せそうで良かったじゃん」

「それがさ…。まだ彼氏と別れてないって…」

「あいつ…。言ったのに」

「…」

「春乃がはっきりしないのもあるけど、」

「?」

「春乃の彼氏も、なかなかの策士だぞ」

「…会ったことあるの?」

「ちょっとだけ」

「へぇ」

「春乃に何も求めないの。形だけの彼氏でいいって」

「うん…」

「最初頭おかしいのかと思ったんだけどさ。あれは、長期戦で見てるね。単純なやつはすぐ好かれようとするじゃん」

「単純って、俺のこと?」

「そういうとこが、単純なの」 

孝司は恥ずかしくなった。


「俺は応援してるよ」

湊はニヤッとした。


「…じゃ、あの二人別れさせてよ」

「俺は別れさせ屋じゃねーぞ」

「ちぇ…」

「お前意外と陰険だな…」









※ 孝司が、絵理達が心配するから風強い日をすごく気にするのはなぜ?!

『 彼は魔法使いで意地悪で好きな人 』

(第22話 病院からの電話)参照

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