ようやく少し笑った
孝司は、相変わらず小林家に通い続けてる。 湊の部屋で過ごすのだが、英語の勉強を見てくれる時もあれば、孝司と春乃の小さい時の話や、彼女の話、仕事の愚痴など、とにかく疲れる。
孝司が小林家を出るとき、春乃に声をかけられた。
「すごい疲れてるね…」
「うん…」
「家に来るのやめないの?」
「うん」
「…リビングに逃げたら…?」
「いいの?」
「私、部屋にいるから」
「でも、いいの?テレビ見れなくなるよ?」「私の部屋にテレビついたんだよ」
「そうなんだ、ずっと来てなかったから…知らなかった…」
「うん。だから、いいよ」
「ありがとう」
2人はぎこちなく笑った。
次の日
「湊君、昨日ね、春乃がリビングにいて良いって言ってくれたんだけど、そっちに行ってていい?」
「あー、そっちにする?」
「…え…?」
「俺もリビングの方が楽だし」
「あ、そう…」
(湊君も付いてくるんじゃ、意味ないじゃん)
春乃が、リビングに孝司と湊がいるのを見て「あれ?お兄ちゃんもいるの?」
気の毒そうに言った。
「ん?」
「あ、いや…」
孝司が、助けを求めるように、春乃を見た。「あ…」
「あ、何?孝司と話あった?」
湊は立ち上がって行こうとする。
「うん…」
「じゃ、ごゆっくり」
湊はニヤニヤしながら去って行った。
「ありがとぉ。助かったぁ…」
孝司は疲れたように、腕を膝の上で伸ばした。
「ねぇ、もう…、わかったよ。勉強時間減らしてること…」
「うん…」
「だから…もう来なくて大丈夫…」
「…彼氏と別れた?」
「え?…ううん、何かあやふやになっちゃって…」
「じゃ、まだ来る」
「なにそれ…」
「…春乃が彼氏といる時間に差をつけられないように」
腕組みをした。
「もう、そんなに会ってないよ…」
「そうなの?」
ちょっと声が弾む。
「うん。でもね、別れるとも言ってないから…」
「…そっか」
「とにかく、俺はここに来る」
「ストレスたまるでしょ」
「うん。たまっても来る」
「バカみたい」
春乃は少し笑った。
「ね、」
「ん?」
「昔みたいにさ、どうでもいい事話すのは、どうなの?嫌?」
「わかんない」
「じゃ、とりあえず話す。あのね、」
「こんなにすぐ始める?」
春乃は笑った。
「うん。あのね、パブロ兄ちゃんが、勉強見てくれるから、勉強時間減らせるって言ってたんだけど。」
「うん…」
「パブロ兄ちゃん、頭いいんだけど、人に教えるの超下手くそで。全然役にたたないの」
「ひどい言い方」
「だから結局自分で勉強してて。でも自分だけで、やった方が割りと効率あげれて。結局、教えてもらえなくて、良かった」
「そっか」
「今まで何だったんだろって虚しくなる…」
「そっか」
「湊君にさ、お前は勉強に呪われているって言われて」
「私の前でも言ってたよ」
「そっか」
孝司は笑った。
「呪いは、解けたの?」
「実際わかんないや。勉強自体は好きだしね」
「ふーん」
「でもね、勉強時間減らして、他の事やる余裕出てきたら、勉強がもっと楽しくなってきたんだよね」
「ふーん」
「ハハッ。ふーんて」
「ふーん」
「あんだけ勉強してたのって、キツくて苦しいからさ、好きって気持ちが薄れてて」
「うん」
「すると効率悪くて」
「うん」
「逆に、頭良くなってなかったみたい」
孝司は、笑ったが、春乃は不機嫌になった。「ん?」
「笑わないでよ」
(え?怖っ)
「そのせいで、どんだけ私が寂しかったか…」
「ごめん…」
「…許さない」
「えー、ごめん!」
春乃は怒った顔をしている。
「ごめんね…。もう、そんな事しない」
「…」
「春乃、ごめんね」
「相変わらず、謝ってばっかり…」
春乃は少し笑った。
「あ、もう帰る時間でしょ?じゃぁね」
「え…」
「また明日」
そう言うと自分の部屋に入って行った。
(また、明日…)
春乃は部屋の中で、孝司はリビングで少し笑っていた。
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