湊君、この作戦大丈夫…?

ピンポーン。

小林家のチャイムがなった。

春乃が出ようとしたが、

「あ、たぶん俺だから、」

と湊が玄関に行った。


「湊君…ホント大丈夫かな?」

孝司が心配そうに湊に聞いた。

孝司は勉強時間を減らして春乃と会う時間を取れると証明すべく、毎日30分だけではあるが小林家を訪ねる事にしたのだ。 

これは、湊の提案だった。


「知らね」

「もうっ」

「取りあえずどうぞ」

「…お邪魔します…」


「春乃ー」

玄関にいる湊がリビングにいる春乃に声をかけた。

「?」

春乃が玄関の方に行くと孝司がいた。


「…なんで…」

「ごめん…」

2人で気まずそうにしていると、湊は話し始めた。

「あのね、これから毎日、俺のとこに遊びに来る事になったから」

「何で?」

「春乃に、ちゃんと時間作れるって証明するために」

「…困る…」

「だから、俺に会いに来るの」

「え?」

「だから、文句言わないでね。孝司、こっち、俺の部屋だから」

湊は孝司を自分の部屋に連れて行った。


「大丈夫?」

孝司は、もう一度、湊に聞いた。

「わかんない」

「あー…」

「でもさ、せっかく毎日来るんだから、何かしようよ」

「何かぁ?」

「…ね、もうすっかり俺の事嫌になってるでしょ」

「…」


「じゃ、お邪魔しました」

「また明日」

湊はにっこり笑って言った。

「…湊君、なんだかんだ…、ありがと。じゃね」

孝司は走って帰って行った。

「やっぱ、かわいいな」

湊はフッと笑った。


リビングに入っていった湊は、伺うように春乃の顔を見た。

「もう帰ったの?」

春乃は機嫌が悪そうに言った。

「…そうだけど?」

「結局すぐ帰るんじゃん…」

「…なにそれ…」

「全然、時間作れてないじゃん…」

春乃は仏頂面で言った。

「…あのさ、」

「なに?」

「あの孝司が、こんだけ時間取るって、なかなかだぞ」

「そうだけど、他の人ならもっと一緒の時間つくってくれる…」

「…お前に孝司はもったいないわ…」

そう言って自分の部屋に入って行った。


春乃は、湊が孝司の肩をもつのが嫌だった。(いつも私の味方でいてくれたのに…)



それから毎日、孝司は、湊を訪ねて行った。

避けられているのだろう、春乃には会うことなく、いつも湊君の部屋で過ごした。


「孝司、毎日来てるよ」

湊は春乃に言った。

「…ふーん」

「いや?」

「お兄ちゃん、なんで孝司の肩もつの…?」

春乃はムスッとした。

「あの子かわいいでしょ」

「…そう?」

「毎日、俺にいじられながら、頑張ってるよ」

「…いじってるの?」

「そうだね」

「…かわいそ」

「お前のせいじゃん」

「…違くない?」

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