性格に難あり、春乃兄・湊の助言

湊は家で一人、本を読んでいた。


「ただいま…」

玄関から元気のない春乃の声が聞こえた。

リビングに入って来た春乃は、明らかに弱っていた。

「元気ないね」

湊に言われて、春乃は泣きそうになった。

「どうしたの?」

湊はたまに、お母さんのように優しく話を聞いてくれていた。

春乃は力なさそうに椅子に座った

「…帰りね、孝司に会った…」

「うん。何か言ってた?」

「やり直したいって…」

「良かったじゃん」

「良くない…。もう…、一緒にいるのやめるって決めちゃったもん…」

「撤回すれば?」

「…そんなことして、またダメだったら。立ち直れない」

「…そうだね」

「孝司は?他に何か言ってなかったの?」

「一緒にいたいって。勉強の時間減らして、会う時間つくるって」

「じゃ、いいじゃん」

「嫌だ…もう振り回されたくない…」

「そっか…」

「もう、考えようたくない。逃げたいよ…」「うん」


「…否定しないの?」

「え?うん」

春乃はホッとした。

「春乃が嫌なら無理には言わないよ」

「お兄ちゃん」

「ん?」

「…この間は言ってたじゃん」

「ん?」

とぼける湊を見て春乃は笑った。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「絵理ちゃんの事、好きだった?」

「…うん。何?突然」

「なんで諦めたの?」

「脈ないから」

「諦められたの?」

「うん」

「なんで?」

「好きだけど、そんなには好きじゃなかったからじゃない?」

湊はサラッと言った。


「孝司はね…」

「うん?」

「…諦めないって…。言ってた…」

「のろけ?」

湊は笑って言った。

「何で…?」

「それくらい好きってことでしょ」

「…ずっと勉強の方が好きだったのに…」

「あの子は、呪われてたから」

「なにそれ」

春乃が少し笑う。

「しかも、パブロ君のせいで」

「何で?」


「パブロ君、大学の時、成績トップじゃなきゃ、絵理と別れなきゃいけないことになってたの」

「え…」

「だから、パブロ君、死ぬ気で勉強してたんだって。孝司はそれ見て育ったから」

「……」

「だから、孝司は頭いいのに、頭おかしくなっちゃったの」

「ひっどい言い方…」


「絵理とパブロ君、この事言いたがらないから、内緒な…」

「うん…」

「絵理のことも、死んでも言うんじゃねーぞ」

湊は睨みつけた。

「はーい」

湊は春乃の軽い返事を聞いて、さらに睨みつけた。

「こわっ。言いません、絶対に」

「孝司にも言うなよ」

「孝司とは、もう話さないかもしれないし…」

「お前ってさぁ…」

「ん?」

「美人だけど、本当バカだよな」

「腹立つなぁ」

「本当、バカだよね」

「2回言うな」


「孝司、考え直してくれたならいいじゃん」

「直した、じゃなくて直すだって」

「?」

「未来形」

「信じられないの?」

「うん…」


「ま、取りあえず、彼氏とは別れたほうがいいよ」

「え…」

「好きなの?」

「…好きじゃなくてもいいって…」

「?何それ?体だけの関係でいいみたいな言い方…」

春乃はグッと湊を睨んだ。

「何もしないって約束で。名ばかりの彼氏で…」


「彼氏君は、何なの?ゲイでもかくしてるの?」

「違うけど、言い方…」

「何か目的があって、付き合ってるふりなんかしてるわけ?そうじゃないなら、彼氏も頭おかしいよ」

「言い方…」


「一般的ではないよ」

湊は一応言い直した。


「とにかく、他に好きな人いるのに、彼と付き合うのは良くないと思うけどね」

「好きな人いない…」

「…勘弁してくれよ…」

「せっかく美人で生まれてきたのにね…」

湊は溜息をついた。

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