もう戻れない

谷川家。

絵理とパブロと湊でお酒を片手に孝司と春乃について話し合っていた。

3人は、春乃と孝司の繋がりだけではなく、仲が良い。


「どうにかならないの?あの二人」

湊が口火をきった。

「孝司が頑固なんだよね…」

「てかさ、パブロ君のせいでもあるじゃん」「え?」

「孝司が小さいころから、勉強はこうすべきって刷り込みをしてたじゃん」

「刷り込んではでないよ。マネしてるのは確かだけど」

「パブロ君がそう思ってても、確実に刷り込まれてるよ」

「それが原因かなぁ」

「絵理まで、やめてよ…」

「パブロがね…」

「パブロ君がね…」

「ちょっとぉ…」

「責任とって、勉強の呪縛から開放してきてよ。うちの春乃のために…」

「うちの孝司のために…」

「…孝司は俺の孝司でも、あるんだから」

パブロは絵理に対抗した。

「じゃ、なおさらだね」

絵理と湊はニッコリ笑った。

(この二人が仲いいの、わかる気がする…)

パブロは、ガックリきた。



とある日。

パブロは仕事帰りに、歩いてる孝司を見つけた。

「孝司ー!」

パブロが声をかけると、孝司は振り向いた。

「…パブロ兄ちゃん」

「何してんの?」

「散歩…。気分転換に」

「…そっか。大変だな」

「フッ。そのセリフ、俺が小学生の頃、試験勉強してるパブロ兄ちゃんによく言ってたな」

「そうだね。孝司が俺の理解者だったから。荷が重かったでしょ」

「重かったわ」

「だよね」


「孝司の理解者は春乃ちゃんだね…」

「そうだったね…」

「過去形?」

「過去になっちゃった…」

孝司は寂しそうに言った

孝司はパブロの前だと素直になれた。


「孝司はさ、俺と絵理がタラタラしてるの見て、怒ってくれてたよね」

「過去形にしないで。今もだよ」

孝司は笑う。

「そうですね」

パブロも笑う。


「でもさ、今タラタラしてるのって孝司だと思うよ?」

「…。逆じゃね?タラタラところかバッサリキレちゃった…」

「切らなくていいもの、自分の手で切ってるようにみえるよ」

「わかんない…」

孝司は下を向いて歩く。


「春乃、彼氏と、楽しそうにしてるよ…」「見たの?」

「…うん」

「で?」

「…楽しそうに、話してた」

「で?」

「…で?って何?」

「どうするの?」

「どうもしないよ。グッとこらえるだけ」

孝司は、笑った。


「悲しいね」

「悲しいよ…」

「勉強、やめれないの?」

「うん」

「そっか…」


「孝司には幸せになって欲しいなぁ!」

「親かよ。親、知らんけど」

「親に近いのかもね。俺も親、知らんけど」

2人で笑う。

「孝司が事故にあった時、これでもかっていうくらい実感して…。絵理と同じくらい孝司がね…」

「…俺が…?」

「…」

「俺が何?」

ちょっとニヤっとしてる孝司。

パブロはムカついて、肩を優しくグーで叩いた。

「…パブロ兄ちゃんも絵理も…。絶対に強く叩かないよね」

「そりゃね、もう孝司が傷つくの二度と見たくないから…」

「それで、大事に思ってくれてるって感じる…」

「そっか」




※ 詳しい話は、

『彼は魔法使いで意地悪で好きな人』〜第22話 病院からの電話 にて




「俺の影響で」

「うん?」

「孝司を勉強漬けにしのなら、いたたまれないな…」

「…」

「孝司には、のほほんとでも、生きてくれればそれで良かったのに…」

「そんな呑気に暮らせるか」

孝司は笑った。


「俺は自分で決めたから…」

「何を?」

「…勉強漬けになる事を」

「…春乃ちゃんと離れる事を?」

「いい医者になる事を」


「じゃさ…、なんでこの辺、散歩してた…?」

「…バレてんの?恥ずかしっ…」

「…」

「…中学の時の帰り道…」

「うん」

「あの頃が、一番楽しかったから…」

「うん。これからでも、楽しくできるんじゃない?」

「…できる気がしない…。もう…、戻れないよ…」

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