お前には合わないよ

孝司は、春乃と別れても、春乃を思わない日はなかった。

だから、寂しさは常にあって、周りから見ても元気はなかった。


「孝司、最近元気ないね」

姉の絵理は孝司に話しかけた。

「普通だよ」

孝司は恥ずかしくて春乃の話はしたくなかった。

「…春乃ちゃんに…」

(その話すんなよ)

「…良くないと思うよ。こういうの」

「…わかってるよ…」

「寂しいって、ホントにつらいから…」

「…」

絵理は恋人のパブロと3年ほど遠恋していた過去がある。


「私等、孝司に甘えて。孝司には沢山我慢させちゃったけど、春乃ちゃんが孝司のそばにずっといてくれたから」

「…」

「春乃ちゃんが孝司を守ってくれてた…」「…そうかもね…」

「付き合うのも別れるのも2人で決めることだけど…」

(別れるなって話かと思ってた)

「春乃ちゃんを傷つけるのは、やめてほしい」

「それ…別れるなってこと?」

「簡単に決めるなって、こと」

「…」



孝司は、部屋で一人考えていた。

「今更…何も言えない…」

(彼氏もできたみたいだし…)

結局、話した所で、孝司は自分の考えを曲げる事はできないだろうと思ってた。

春乃の事は、ずっと大好きだけど、春乃の望むようにはしてやれない。

結局結論は変わらない。




「春乃」

駿太が呼んだ。

「…何…?その呼び方…」

「だめ?」

「…うーん。ピンとこない」

「でも、小林と中野君じゃさぁ」

「別にいいんじゃない?」

「…そ?」

「うん。…今、中野君の事好きじゃないし…」

「そうだけど。…今後も好きになる予定はない?」

駿太は、冗談ぽく言ってみた。

「わかんないけど、今の所はないかな…」

(わかんないんだ。よしっ)

「でも、俺とは付き合うんだ」

「中野君が、それでも良ければね」

「いいけど、春乃のその考えよくわからないよね」

駿太はサラッと名前を呼んでみた。

「好きじゃないけど…一緒にいたら、楽だから…かな?」

「ふーん」

「てか、名前。呼んだでしょ」

春乃が苦笑いする。

「友達同士でも、名前呼び合うから良いじゃん」

「ま…そうだね。今は慣れないだけか…」

「俺の事も名前で読んでみて」

「駿太?」

春乃は笑って言った。



「ただいま」

春乃が家に入っていくと、兄の湊が春乃を待ってたように座っていた。

「絵理から、聞いたんだけどさ。孝司と別れたの?」

「…うん」

「新しい彼氏もできたって?」

「うん…」

(絵理ちゃんはどこからそんな情報を…)「やめときなさい」

「え?」

「お前には合わないよ。そういうの」

「そういうのって?」

「器用にコロコロ男かえるの」

「コロコロ変えてません」

春乃は怒って言った。

「じゃ、言い方かえるけど、孝司しか合わない」

「…合わなかったんだよ…」


「…孝司は、パブロ君の事、尊敬し過ぎだから」

「?」

「パブロ君の勉強のやり方をそのまま引き継いじゃってるの」

「そだね」

「お前を大事に思ってないわけじゃ、ない」


「そう思うと余計辛い…」

「…そっか、ごめん」

「ううん、ありがとう…」

「…」

「でも、今は孝司といるのは辛すぎる…」


湊は、春乃の頭をポンと叩いた。

(…俺の出番か…?)

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