新しい彼氏

春乃は駿太と表向き付き合う事になった。

春乃は駿太に何もしないでと言っていたので、一緒に帰ったり、たまにお弁当を食べたりした。

春乃は駿太に対して、別に好きにならなくていいと思えば気楽に付き合えた。


「ねぇ」

駿太が話しかけてきた。

「いちお、彼女だって周りに言ってもいいの?」

「別にいいよ」

(男子に告白されなくなるから)

「そうなんだ」

「うん。でも引き続き何もしないでね」

「わかった」

(ということにしておこう)

駿太は、春乃が思うより、春乃の事が好きだった。



春乃に彼氏が出来たことは、すぐに孝司の耳に入った。

孝司は、春乃と勉強の狭間で、ずっと苦しんでいた。

結局、孝司は理想の医師になる事を諦めることはできずに、別れる事になってしまった。

でも、どこかで春乃は待っててくれると思っていた。


だから、春乃に彼氏がいると聞いたときは、悲しかった。

孝司は、春乃の彼氏はどんな人なのか、本当に好きになって付き合ってるのか、すごく気になっていた。


孝司が、春乃の家方面を歩いていると、春乃と彼氏らしき人が歩いているのを見かけた。

向こうは孝司に気づいていなかった。

春乃はリラックスした状態で、彼氏と話していた。

孝司は、今まで自分以外の男子に打ち解ける事はなかったのにと、思った。


孝司は淋しいような悲しいような思いで、家に帰り、そしてすぐに勉強を始めた。



ご飯の時間にリビングに行くと、パブロがダイニングチェアに座っていた。


孝司と絵理の両親はずいぶん前に事故で亡くなっていて、年の離れた兄と姉はいるが、海外赴任と結婚とで一緒には住んでいない。

今は、孝司と絵理とパブロとの3人暮らしだ。

パブロは絵理の恋人だが、わけあって10年前から一緒に住んでいるので、孝司にとってなんの違和感もなかった。


「お疲れ」

「うん…」

「どうしたの?」

「春乃にさ、彼氏ができたみたいで…」

「…え?誰?」

「春乃に彼氏」

「え?」

「…。別れたの、俺たち」

「え?!なんで?!」

「俺が、勉強ばっかしてるから」

「…そんな別れなきゃいけないほど、勉強してるの?」

「うん…」

「…何で?」

パブロは真面目な顔で聞いた。

「俺、…医者になりたいの」

「…そうなの?!」

「うん。だから、勉強しなきゃ」

「そんなにしなきゃ、なれないの?」

「そんなにして、医者になった人じゃん」

パブロを指差して言った。

「そうだけど…」

パブロは孝司の選択に困惑した。




「…だって腹立つじゃん!私より勉強の方が大事で」

「うん。ちょっと変わってるね」

学校帰り、春乃の愚痴を聞きながら、駿太はしまったと思っていた。

さっき、春乃に改めて別れた原因を聞いてしまったからだ。

春乃の孝司に対する怒りが再燃して話が止まらなくなっていた。

「毎日不安で、疲れたし」

「うん」

「もう、我慢ばっかりするの嫌になって…」

「そっか」


「俺、彼氏?」

「肩書だけだけど」

「ふーん。じゃ、その勉強ばっかの元彼きたら、追い払っていいの?」

「いいんじゃない?来ないと思うけど」

「来たら、そうする」

「…彼、そんなタイプじゃないと思う…」「そ?どんなタイプ?」

「陰険…?」

「…なんで、好きだったの…?」

「…」

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