筋トレ系Vtuberとゲーム配信 5

 PCに向かって、私は配信の準備を進めていく。

 

 ――やばかった。

 ――マジで、やばかった。

 

 私は、ついさっきの光景を思い出す。また、頬に熱を帯びていくことを感じる。さっきから、準備が全然進まない。

 

 ――もし、アラームならなかったら。

 ――もし、配信休みの日だったら。

 ――キスしちゃったのかな。


 そんな考えばっかり、頭の中をぐるぐる廻る。

 ――たっちゃん、顔真っ赤にしていたなぁ。恥ずかしかったのかな。少し、声上ずってたし、緊張してたみたい。ってことは、少しは可愛いって思ってくれたのかな。そう思うと、顔が自然と緩んでしまう。

 配信の時間が近づいたことに気が付き、緩んだ顔に気合を入れ直す。心なしか、私の背中には、まだ温かさが残っているように感じた。



「こんばんは~。みんなを健康にするためにやってきた筋トレ系Vtuber、月見せりだよー。」

 

 りょう :こんばんはー

 田中  :朝ぶりー

 せん  :せりちゃーん

 

「今日も来てくれてありがとー。今日は遂にゲーム配信するよ~。」


 よし  :おおおお

 田中  :やったー

 てい  :何やるのー?

 

「みんな、『リアル・ボクシング!vol12』って知ってる?」

 

 田中  :おおお、知っているよー

 さあや :なんか、おもしろそー

 ららら :ごめん、しらない


「おお、知っている人もいるみたいだねー。ちな、持ってるって人いる?」


 たちばな:もってるよー

 りょう :ごめーん、もってない

 けんじ :もってなーい


「あ!持ってる人いたー!いいねー。」

「知らない人も多いみたいだから、どんなゲームか説明するねー。」

「これはね、両手にコントローラーもってやるのね。それで、リアルでパンチすると、キャラクターが連動してパンチするみたいな感じなの。わかったー?」

 

 田中  :おもしろそー

 ちょー :なんとなくー

 さあや :わかったー


「まあ、1回CPU戦やってみるねー。」


 さあや :おk

 うう  :きたい

 たお  :おけ


 私は、CPUをボコボコにした。途中から、コメント欄の動きが遅くなってきて、私が倒した頃には、ほぼ動いていなかった。そして、その日のうちに、Vtuberの掲示板にスレッドがたった。


 「【悲報】 ワイの推し、筋トレガチ勢だった件」

1名無しのV豚

 最近、ワイが推してるVtuberのパンチが想像以上にガチなんだが

 【動画】


2名無し

 >>1

 まあまあガチで草


3さささ

 >>1 

 いや、ガチすぎて草

 

4名無し

 >>1 

 これは、ホンモノ


5名無し

 >>1 

 これは、ガチ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


6名無し

 >>1 

 逆に推せる!


 ・

 ・

 ・



 せりの登録者が増えた。そして、「リアル・ボクシング!vol12」がごく一部の界隈で小さなブームになった。せりは、数日ショックで元気がなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る