筋トレ系Vtuberとゲーム配信 4

「YOU WIN!!!」



 静まり返った地下室で、ただゲームからの機械音が響く。

 

 

「……はぁ。……はぁ。」

 少しして、吐息が聞こえる。

 聞きなれた声。もう、僕の日常に染み付いた声。

 僕に向けられている、いつもの声ではない。

 それでも、知っている息遣いだ。



「……うぅ。」

 よく知っている声。

 いつもはツンツンしていて、ムスッとしてる。

 負けず嫌いで、意地っ張り。

 でも、本心は優しくて。

 私のこと、大事にしてくれて。

 私の大好きな声。

 

 

「……たっちゃん。」

 うっとりした目で、せりは僕を見つめる。

 吸い込まれそうな、透き通った青みが入った綺麗な大きな瞳だ。長いまつ毛、ちょっと汗ばんだ額、頬も少し赤くなっているのが分かる。最近、あんまりよく見る機会がなかったけど、本当に可愛い。そして、僕の視線は、口元に集中してしまう。

 

「……せり。」

「……たっちゃん。」


 自然に、僕とせりは近づいていく。

 どっちの声がどっちのかもう分からない。

 僕とせりの境界線が曖昧になるような感覚だ。



「ピピピッピピピッピピピッピピピッピピピッ。」


 

「キャッ!?」

「うわ!?」

 せりと僕は大きな声で驚く。反射的に、僕とせりは離れる。気が付くと、ちょうど背中合わせになるよう、座っっていた。背中越しにせりの体温が伝わる。鳴ったのはせりのケータイのアラームだ。せりは、いつも配信の時間の前にアラームをセットしている。

 

「……配信、準備しなきゃ。」

「……うん。……頑張ってね。」

「……うん。」

 顔を振り向かせると、せりは、こっちに背中を向けたまま答える。髪の間から、真っ赤になった耳が見える。それを見て、僕の頬も赤くなっていることに気が付く。僕の体温が、またどんどん上がっていくことを感じる。僕は、せりから離れて立ち上がる。

「……じゃあね。」

「……うん。」

 僕は地下室を後にして、自分の部屋へと向かった。そして、ベッドで横になる。背中があったかい。それが、ベッドのおかげなのか、僕の身体がまだ熱いのか、せりの体温の残りなのか分からなかった。

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