筋トレ系Vtuberとゲーム配信 3

「レディーファイッ!!」

 ゴングと掛け声によって試合がはじまる。

 

「チェストオオオオォォ!!」

 せりが大きな声を上げながら右ストレートを放ってくる。どうやら、薩摩隼人だったらしい。どうせ、SNSのトレンドでも見て、やってみたくなったんだろう。

「うわ!ちょ……!」

 せりの拳が僕のキャラクターの顔面に直撃する。キャラクターのHPがごっそりと減らされる。

「ふふふっ。さぁどんどんいくよ。」

 せりが笑いながら拳を握りしめる。

 そこから、僕は防戦一方になった。

「たっちゃん、ガードは上手だね。でも、守ってるだけじゃ、勝てないよ!」

 せりの乱打がさらに激しくなる。

「……クッ。キッツい。」

「ほらほら、まだまだいくよ!勝つ気なくなっちゃった?それともコース料理作りたいのかな?」

「まさかぁ。むしろ、寿司の口だよ。」

「ドリャドリャドリャドリャアー!」

 せりが、僕を仕留めにかかる。その4連撃を僕は守りきる。そして、連打の隙につけ込み、僕はボディーを決める。せりは、まずいと思ったのか1度距離をとる。僕は徹底してカウンター狙い、せりはガードの上から体力を削る。そんな攻防を数度繰り返した。そして、せりの体力は残り3割、僕の体力は残り1割となった。

 

「ハァハァハァ。……たっちゃんやるねー。そろそろキツくなってきたよ。」

「ハァハァ。……せり、こそ。どんな体力してんだよ。」

「ハァハァハァ……。楽しかったよ、たっちゃん。でも、そろそろ決めるよ!」

「望むところだ!」


「うおおおお!」

 せりの渾身の右ストレートが、僕の顔面めがけて飛んでくる。

 僕はガード……ではなく、後ろへの回避を選んだ。

「まだだ!!」

 せりは、その動きをみて、左足を前に出し、左ストレートを繰り出す。

 (きた!)

「どりゃああ!クロスカウンター!!」

 僕は、せりの左ストレートに合わせて、右ストレートを繰り出す。僕が昔読んだボクシング漫画の決め技だ。

 せりは、相打ちだと思っただろう。しかし、せりの拳は僕には届かない。本当のクロスカウンターは、相手の拳をかい潜りながら放つ、一撃必殺の技なのだ!

「……決まった!」

「まだだー!!」 

 僕が勝利を確信した瞬間、せりの右手が僕の顎めがけて上ってくる。

 (……しまった!?)

「うおおおおぉ!」

 (ヤバい!)

「……あっ。」

 瞬間、せりが足を滑らせ、身体が宙に浮く。

「せり!!!」

 僕は庇うように、せりの方へ走り飛ぶ。



「YOU WIN!!!」

 ゲームの音が静かな地下室に響く。



「……。」 

「……。」

 僕の身体は、しっかりとせりの身体を守る役目を果たした。代わりに僕の身体は、地面に投げ出されている。身体が少し痛い。それと同様に身体中に心地よい重みを感じる。岩のような硬さではなく、泡のような柔らかさだ。先程までと違い、僕の目には影が差している。眼前には、僕の見慣れた顔がある。

「……たっちゃん。」

「……せり。」

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