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「っ………!」




僕は、真さんになろうとしていたのだから、いつかこういうことが起きることも、覚悟していなきゃいけなかった。


でも、おやすみを言おうと圭くんの方に振り向いた時、突然、唇と唇が触れ合って、僕は、何も言葉が出てこなかった。


表情さえも、作れなかった。






「……っ…」




僕を真さんだと思い始めていた圭くんも、その反応で、現実に戻ってしまったみたいだった。








「……マ……コ………」




僕は、最低だ。







「っ……!」


「マコ!!」




圭くんの制止の声を振り切って、家を飛び出した。


どこにも行く宛なんかないけど、とにかく、どこか遠くへ行って、消えてしまいたかった。










「ごめんなさいっ…ごめんなさ……」




僕は、最低なことをしてしまった。






圭くんに、最愛の人の死を、二度も、感じさせてしまった。






もう、圭くんの元へは戻れない。


もう、もう僕は………








行く宛もないままフラフラと街を彷徨う僕を嘲笑うように、どんよりと曇った空からは、冷たい雨が降り注いでいた。





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