おじさんとチロ
薄く目を開ける。
ふわふわした意識、さながら半覚醒。
「おい」
例えるならば休日のお昼寝から目が覚めた時みたいな感じだ。
あの罪悪感が混じった快感がたまらない。
同時に時間を無駄にしてしまったような気がしてちょっと後悔することでワンセット。
「チロ!」
「ふぁい!」
大きな声。
深く腰掛けていた椅子から飛び跳ねた。
しっとりと深く沈む一人用のお高い椅子。
ほぼ反射的に立ち上がって返事を返した。
まだぼやぼやする目をこすって辺りを見回すと、ちょうど暖炉のところでなにやら箱を漁るおじさんの後ろ姿が見えた。
「チロは寝坊助だなぁ、まったく」
茶色の大きな箱から、ぽいぽいとがらくたやらなにやらを投げ捨てながらぶつぶつと呟く。
おじさんも私も片付けが苦手。
その辺にあった邪魔なものはなんでも箱やら引き出しに適当に押し込んだ。
だから何か探し物があるときはいつも大変だった。
「おじさん、何探してるの?」
「写真機。手伝ってくれや」
ねぇな。
ついには茶色の箱すらも放り投げた。
これは早く見つけないと大変なことになるぞ。
こくりとおじさんに頷いた。
おじさんは住んでる家が大きい割に、特段特別でもなく普通の人。
さっぱりと刈り上げた髪の毛は白髪が混じり、もういつのか分からない程古い丸眼鏡をかけてる。
私生活も適当で、部屋はいっつも足の踏み場がない。
その原因は明らかで、今日みたいに突拍子もなく何かを探し始めたかと思えば、家中の何から何まで全てひっくり返してそのままにする。
でも、私はこの時間がちょっと好き。
黙々と引き出しをひいては中身を出して次へ、次へ、次へ。
おじさんの愛用の煙管から煙草の煙が上がって、天井へ、やがて消える。
古時計がかちこち時間の流れを伝えてる。
ちょっと古い家だから、強い風が吹く度に若干曇った不満を漏らす。
悲鳴をあげるでもなく、それだけに留めるのだから大したものだ。
「あ」
「おじさん?」
振り向けば、先程までがさがさやってたおじさんの背中が止まってた。
おじさんが私に振り向いた。
ちょっと引きつった笑顔。
「あった」
首から下げた写真機。
「うん、よかったね…」
ぺちん、おじさんが煙管から吸った煙を吐いて、おでこを軽く叩いて上を向いた。
「歳はとりたくねぇな、チロ」
「は、はは」
おじさんが首からずっと下げてた写真機の大きなレンズ。
本当に歳だけのせいなのだろうか。
レンズに反射した無造作な赤い髪の少女。
呆れ半分、心配半分の笑顔は引きつっていた。
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