19話 部室見学!

 都鳥大学のキャンパスは東西に長く伸びていて、俺たちがいた七号棟から更に東側に行ったところに、学生食堂や生協の売店などが入った学生ホールと呼ばれる建物がある。

 各サークルの部室は、この建物の二階より上に集まっていて、文芸部の部室は三階の305号室に割り当てられていた。


 キョーヤ先輩の案内に従って俺たちは部室の中に入った。部屋の広さは六畳くらいで入り口から向かって正面に窓があり、部屋の中央に大きめの長テーブルが一つ、両サイドの壁には大きな本棚が設置されている。本棚の中には文庫本や部誌のバックナンバーなどの書籍が大量に詰め込まれていた。


 長テーブルを囲むように俺たちが座ると、まだ全員到着していないにも関わらずギュウギュウだ。ハッキリいってスペース的にはさっきまでいた七号棟の教室のほうがよっぽど広い。

 

 それにも関わらずキョーヤ先輩が部室で仕切り直そうと言った理由――要はこの人が酒を飲みたかったのだろう。

 小さめの冷蔵庫をゴソゴソと漁り、アルコール飲料を取り出す先輩の後姿を見て、そう思い至った。


 とにかく、これが文芸部の部室。なるほど、いかにもサークルっぽい空間だ。ちょっとワクワクしてくる自分がいる。

 

 そしてそんな空間に、程なくして一輪の花が咲くことになった。


「機械工学科一年の白鷺穂乃果です! 穂乃果って呼んでください。本は湊かなえさんや有川浩さんの小説が大好きでよく読みます。よろしくお願いします!」


 後から合流してきた白鷺さんは、自己紹介を終えてペコリとお辞儀をした。

 その動きに合わせて、彼女の肩まで伸びた亜麻色の髪が小さく揺れる。ほのかにシャンプーの匂いが香り、彼女の隣に座る俺の鼻をくすぐった。


「よろしくねー、穂乃果ちゃん」


 キョーヤ先輩の掛け声と一緒にパチパチと拍手が起きた。


「いやーそれにしてもめっちゃキレイだねぇ。キミが文芸部に入ってくれたら華やかになるなぁ」

「あはは、ありがとうございます」


 キョーヤ先輩の歯に衣着せぬホメ言葉に対して笑顔で応じる彼女。

 そんな二人のやり取りに、一番最後に合流してきて、入り口近くの椅子に座った雨宮先輩が口を挟んだ。


「おい、恭也。発言を慎め。このご時世その物言いはセクハラになりかねん」

「えー? 相手を褒めることの何が悪いんだよ?」

「初対面の異性にいきなりかける言葉ではないと言っているんだ」

「け、相変わらずおカタいねー」

「お前が緩すぎるだけだ。……すまないね、穂乃果くん」


 雨宮先輩は白鷺さんに謝罪する。白鷺さんは手をパタパタと振りながら笑顔で返事をした。


「わたし全然気にしてませんから、大丈夫ですよ」

「この男は多分に軽率なところがあってね……」

「なんだとコノヤロ」

「ただ、決して軽薄な男ではないから、本当に相手が嫌がっている場合、態度を改めるだけの分別はあるはずだ。だからイヤならイヤと遠慮なく言ってほしい」

「おい、志鶴。それフォローしてるつもりか?」

「部長として不出来な部員に対する最大限のフォローをしているつもりだが?」

「誰が不出来だコノヤロ……」


 白鷺さんは、そんな先輩たち二人の掛け合いを見て可笑しそうにクスッと笑う。


「白鷺さん」

「なに、直道くん? あ、わたしのことは穂乃果でいいよ」

「ああ、うん。えっと――」


 俺は彼女にさっきからずっと気になっていたことを聞いてみた。


「穂乃果さん、テニサーに入るって言ってたじゃん? そっちの新歓はもういいの?」

「あーうん、そのつもりだったんだけどね。何となくノリが合わなかったのと、人数もすごい多くて。もう少しのんびりしたサークルがいいなぁって思ってたからさ」


 彼女は困ったような笑みを浮かべた。


「それで他の友達はどうしてるのかなーって思って、まどいに連絡したんだ」


 俺が烏丸さんの方に視線を移すと、彼女がこくりと頷いた。

 いつの間にか烏丸さんと穂乃果さんは仲良くなっていたらしい。まあ、学科に女子が二人だけだから当然と言えば当然かもしれないけど。


「でも来てみて正解だったな。雰囲気もいいし、人数も丁度いいし、活動内容も面白そう」


 そう言うと、穂乃果さんはニッコリと微笑む。


「それに、直道くんもいるしね――」


 彼女の笑顔が急にこちらに向けられたので、思わずドキッとしてしまった。

 え、それってどういう。まさか俺のことが……⁉︎


「知り合いが多いと安心感あるよね!」


 はい。ですよね。分かってましたとも。

 とはいえあの穂乃果さんから知り合い扱いされているだけでも天にも昇るくらいに嬉しいのだ。童貞舐めんなよ。


「いやーでも、キミたち四人が全員入部してくれたら、文芸部も賑やかになるなぁ。先輩が留学してからは三人だけで寂しかったからさぁ。ひばり先輩も掛け持ちで忙しくて、いつ部室行ってもコイツしかいないんだもん」


 キョーヤ先輩が雨宮先輩を指さしながら言った。


「それに女子も多いしさー。きっとひばり先輩、女子が増えて喜ぶぞ」


(俺は別にまだ入部すると決めたわけではないんだけどな)


 そんなことを思っていると、おずおずといった感じで、古鷹さんがキョーヤ先輩に声をかけた。


「あの……女子が多いっていうのは、どういう意味でしょうか……」

「え、どうってそのまんまの意味だけど? まどいちゃんだろ。あと穂乃果ちゃん、そんでキミ。鳩山クン以外全員女の子じゃん?」


 キョーヤ先輩が指折りしながらそう答える。すると、古鷹さんはバツの悪そうな、どこか「ああやっぱり」みたいな表情を浮かべた。

 

 そして、その後。

 衝撃的な一言が彼女の口から飛び出した。


「あの、ぼく……男です」

「……ん? ごめんよく聞こえなかった。なんだって?」

「だからその、ぼく……男なんです!」


 古鷹さんが恥ずかしそうに赤面してそういった次の瞬間。


「ええええええええええええッ⁉︎」


 この場にいる全員の声がキレイにハモった。

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