法の裁きに終止符を
もやしいため
第1話
『無実の証明』
それは誰にとっても容易ではない。
動機がないことを訴えても。
アリバイが確立している証拠を提出しても。
凶器の在処がわからなくても。
そこに一欠片でも『疑惑』があるだけで認められない。
本来であれば、証拠を積み上げた先にある『罪の立証』こそが問われる。
だがこれは捜査権を持つ検察側の主張であり、結論ありきでストーリーが出来上がっている。
しかし推測と事実と証拠を積み上げる中、噛み合わないピースは確実に現れる。
プログラムのように整合性が保てない人が相手では仕方ない。
そうして結果が歪められることは往々に起きている。
現に最近では逆転無罪の判決がいくつも出ていることからもわかる。
「納得、いきません」
テーブルを力強く叩いても、手を痛めるだけだ。
何なら彼の『納得』など誰も気にせず世界は回っているのだから。
「『推定無罪』、いい言葉だろ。お前もありがたく感じることがあるかもしれんぞ」
どれほど残虐なことをしようとも。
どれほど証拠を提示しようとも。
どれほど被害者が訴えても。
確証に届かなければ認められない。
起訴する側には弁護する側とは違った難しさがある。
少しの疑惑を残せば有罪をつかみ損ねる。
強力な弁護団を引っ提げて『推定無罪』の名の下に、公権力に圧力まで掛け、事実をひっくり返されることさえあるのだ。
「あいつは絶対にやってます!」
「……俺もそう思う」
「だったら――」
「あぁ、だから万人は法の下に平等なんだよ」
余りの正論にぐぅ、と言葉を呑み込んだ。
今回の件は『検察審査会』で争って、渋々始まった裁判だ。
だから無罪を奪われた検察上層部は「そら見たことか」と思っているに違いない。
・
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『先日無罪を勝ち取り、一躍時の人とのなった山村議員のご子息の行方が分からなくなりました。
山村議員は会見で――「とにかく早く戻ってきてほしい。それだけです」と涙を流しておられました――』
四方をコンクリートに囲われた、照明のない部屋の中でテレビが流れていた。
眼鏡を掛けた男が
反響するはずの音は何処かへ消えて何だか不思議な光景だ。
「同じ状況に置かれて何か感想はあるか?」
「……早く、帰らせろ」
鉄棒に革のベルトで吊るされた男が、憔悴した声で返した。
眼鏡の男が「幼児虐待犯の言葉とは思えないな」暗く嗤う。
「虐待なんてしてないっ!
俺はただ、日本の未来を思って力を――」
「口ではなんとでも言えるさ。いいや、お前は口先だけだ。
本当に未来を思っているのなら、自分から変わるべきじゃないのか?」
「子供にこそ、教育を施すべk」
「責任転嫁も甚だしい!!」
――かっ!
と部屋全体に照明が灯る。
そこには武骨な金属の器具が所狭しと
椅子には固定具、腕にはベルト。
硬質なワイヤーが這い、大小さまざまなプレートを繋ぎ合わせていた。
整然と並ぶそれらを見た眼鏡の男は、恍惚の表情を浮かべる。
そして吊るされる男に向けて告げた。
「まずはお前が率先して筋トレをしろ。そして俺のように心身ともに鍛えるんだ」
鏡の前でポーズを決めてシャツを破る眼鏡の男。
ここは彼の個人ジム。
泣こうが叫ぼうが助けは来ない。
防音はもとより、電波からも遮断されている。
だから誘拐されて懸垂バーに吊るされた男が解放されるには、
自らの命を勝ち取るために、自らを鍛えて。
※この後めちゃくちゃ和解した
法の裁きに終止符を もやしいため @okmoyashi
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